でも佐藤さんは、そんなわたしの気持ちを否定しません。

「大丈夫だよ」

と簡単に言うのではなく

「怖いよね」と受け止めてくれる。

その優しさが、何度もわたしを救ってくれました。


「でもさ」

佐藤さんが穏やかな声で言います。

「買えたってことは、一歩進んだってことじゃない?」

「え?」

思わず顔を見ると、佐藤さんは笑っていました。


「だって、前は検査すること自体が怖いって言ってたじゃん」

「……言ったね」

「でも今日は、一緒に買いに来た」

その言葉に、ハッとしました。


わたしはずっと、結果のことばかり考えていました。

陽性だったらどうしよう。

陰性だったらどうしよう。

でも佐藤さんは、その前の一歩を見てくれていたんです。


一人で悩んでいたわたしが。

一人で抱え込んでいたわたしが。

今は、隣にいる人と一緒に未来へ向かおうとしている。

そのことに気付きました。


「ありがとう」

自然と、そんな言葉が出ました。

「何が?」

「一緒に来てくれたこと」

そう言うと、佐藤さんは少し照れくさそうに笑います。

「当たり前じゃん」

その何気ない一言が、胸に響きました。


妊活って、女性だけが背負うものじゃないんだ。

改めてそう思いました。


駅に着いて、電車を待っている間。

わたしは何度も妊娠検査薬が入っている佐藤さんのバッグを見てしまいます。

「そんなに気になる?」

佐藤さんが笑います。

「だって……ここに未来が入ってる気がするんだもん」

そう言うと、佐藤さんは少し驚いたような顔をしてから、優しく笑いました。


「そうだね、でもね」

「うん?」

「未来は、この箱だけで決まるものじゃないと思うよ」

その言葉に、胸が温かくなりました。

結果はもちろん大事。

赤ちゃんを授かりたい気持ちは、変わりません。


でも、それだけじゃない。

こうして一緒に悩んで。

一緒に待って。

一緒に笑える相手がいること。

それも、わたしにとって大切な幸せなんだと思いました。


電車に乗り込み、窓に映る二人の姿を見ます。

少し疲れた顔をしているけれど、隣には佐藤さんがいる。

その姿を見ていると、不思議と心が落ち着きました。


「検査する日は、一緒に見るからね」

佐藤さんが言います。

「うん」

「どんな結果でも」

少し間を置いて。

「一緒に受け止めよう」

その言葉に、胸がいっぱいになりました。


家に着いてからも妊娠検査薬のことを考えます。

すぐにでも確認したい気持ちはあります。

「あと少し」小さく呟きながら、わたしは深呼吸しました。


小さな箱の先に、どんな未来が待っているのか。

まだ分かりません。

でも今は一人で結果を待っているわけじゃない。

それだけで、少しだけ怖さが和らいでいました。



次回へ続きます。