気分転換のデートを楽しんだ帰り道。
駅へ向かって歩いていると、不意にドラッグストアの前で足が止まりました。
大きな看板を見つめたまま、わたしは動けません。
佐藤さんも、その視線の先を見て、すぐに気付いたようでした。
「検査薬?」
わたしは小さく頷きます。
「そろそろ買っておこうかなって…」
そう言ったものの、なかなか足が前へ出ません。
買うだけ。
それだけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。
佐藤さんは優しく笑って言いました。
「じゃあ、一緒に行こう」
その一言が心強くて、わたしたちは並んで店内へ入りました。
店内は通勤時間帯ということもあって、お客さんがたくさんいます。
日用品売り場を通り、お菓子売り場を通り過ぎて、少し奥へ。
妊娠検査薬の棚は、ひっそりとした場所にありました。
目の前には何種類もの検査薬が並んでいます。
「この店たくさん種類ある…」
思わず小さな声が漏れました。
「どれがいいんだろう」
二人で箱を見比べながら説明を読みます。
「これと、こっちは何が違うんだろうね」
「判定できる日が違うのかな?」
そんな話をしながら選んでいると、後ろから女性の声が聞こえました。
「すみません」
振り返ると、同じ棚を見に来た女性が立っています。
「あっ、ごめんなさい」
慌てて場所を譲ると、その女性も検査薬を手に取り、真剣な表情で見比べ始めました。
その姿を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられます。
この人も、赤ちゃんを待っているのかな。
わたしと同じように、不安と期待を抱えているのかな。
そう思うと、急に親近感が湧いてきました。
妊活って、一人じゃないんだ。
顔も名前も知らない誰かも、同じように悩んでいるのかもしれない。
そんなことを考えていました。
ようやく一つを選び、箱を手に取ります。
「これにしようかな」
「うん」
佐藤さんも笑顔で頷いてくれました。
でも、ここからがまた緊張です。
レジまで持って行くのが、なんだか恥ずかしい。
何度か経験しましたが、慣れません。
かと言って、買うつもりもなかったお菓子などカモフラージュで買って、レジに持っていくのも何だか違う気がするんです。
わたしが立ち止まっていると、佐藤さんが不思議そうに聞きました。
「どうしたの?」
「なんか…レジに持って行くの恥ずかしい」
そう言うと、佐藤さんは少し笑って
「じゃあ、俺が持つよ」
そう言って、何のためらいもなく検査薬を受け取りました。
「えっ、いいの?」
「もちろん」
その自然な行動に、胸が熱くなります。
ところが、その時でした。
「おっ、佐藤!」
突然、後ろから男性の声が聞こえたんです。
次回へ続きます。