二人で駅前を歩いて、おしゃれなカフェへ入りました。
窓際の席へ座り、運ばれてきたコーヒーの香りに癒やされます。
「甘いもの食べる?」
「食べる」
ショーケースを見ながら二人で迷っている時間さえ楽しい。
「これ美味しそう」
「じゃあ半分こしようか」
そんな何気ない会話をしているだけなのに、心が少しずつ軽くなっていくのが分かりました。
カフェを出たあとも、目的もなく街を歩きます。
洋服を見たり、本屋さんへ寄ったり。
くだらないことで笑って。
たわいない話をして。
「あっ」
ふと足が止まりました。
向こうから、小さな男の子を抱っこしたご夫婦が歩いてきたんです。
お父さんに抱っこされながら笑う赤ちゃん。
その横で、お母さんも笑っています。
とても幸せそうな光景でした。
思わず目で追ってしまいます。
「……」
胸が少しだけ苦しくなりました。
いいな。
わたしも、いつか。
そう思った瞬間でした。
隣から、そっと声が聞こえます。
「ななさん」
顔を上げると、佐藤さんが優しく笑っていました。
何も聞きません。
「大丈夫?」
とも言いません。
ただ、何も言わずに隣を歩いてくれる。
その優しさが、今のわたしには何より嬉しかったんです。
しばらく歩いていると、佐藤さんがぽつりと言いました。
「焦らなくていいからね」
「……うん」
「俺は、ななさんと一緒に笑って過ごせる時間も大事にしたい」
その言葉に、胸が熱くなりました。
妊活を始めてから、いつの間にか結果ばかりを追いかけていました。
もちろん、それは今も変わりません。
でも、その結果だけじゃなく、こうして笑い合える今日という日も、大切な時間なんだ。
そう思えたんです。
帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら、佐藤さんが笑って言いました。
「今日はちゃんと気分転換できた?」
少し考えてから答えます。
「うん、でもね」
「うん?」
「やっぱり少しは考えちゃった」
そう言うと、佐藤さんは声を出して笑いました。「知ってた」
「バレてた?」
「もちろん」
二人で顔を見合わせて笑います。
検査の日まで、あと少し。
不安がなくなったわけではありません。
それでも、一人で抱え込んでいた時より、ずっと心は軽くなっていました。
そんな優しい休日になったのでした。
次回へ続きます。