ちょうど排卵日が近いタイミングだったのて、二人で初めてシリンジ法を試してみることにしていたんです。



一年くらいまえの記事でもシリンジ法に触れてました。

この頃は佐藤さんにまだ知り合っていなかったと思うとなんだか不思議です。



もちろん、二人とも初めて。

説明書を見ながら

「これで合ってる?」

「たぶん⋯こうかな?」

と、お互い確認しながら進めていきます。


「なんか実験してるみたいだね」

思わずそう言うと、佐藤さんも笑いながら

「確かに理科の授業みたい」

その一言がおかしくて、二人で笑ってしまいました。


さっきまで食事会で緊張していたのに、今度は全然違うことでドキドキしている。

なんだか不思議です。

「最初はもっと難しいのかと思ってた」

わたしがそう言うと

「俺も、もっと複雑なのかと思ってた」

佐藤さんもホッとしたように笑います。


もちろん、緊張はありました。

ちゃんとできているのかな。

これでいいのかな。

そんな不安もありました。

でも、お互いが

「大丈夫?」

「焦らなくていいよ」

と自然に声を掛け合えたことで、思っていたよりも落ち着いて進めることができました。


そして無事に終わると、二人で顔を見合わせます。数秒間見つめ合ったあと

「終わったね」

わたしが言うと

「終わったね」

佐藤さんも同じように笑いました。

その瞬間、二人とも緊張の糸が切れたように笑いが止まらなくなったんです。


「なんかさ」

わたしが笑いながら言います。

「初めてのことって、もっと重たい雰囲気になるのかなって思ってた」


すると佐藤さんも頷きました。

「俺も。でも、ななさんとだったからかな、ちゃんと話しながらできたし、最後は笑えた」

その言葉を聞いて、胸がじんわり温かくなりました。


妊活って、どうしても『頑張らなきゃ』『授からなきゃ』という気持ちばかりが大きくなってしまいます。

でも、この日は違いました。

初めてのことに戸惑いながらも

「これで合ってる?」

「大丈夫そう?」

なんて確認し合って、分からないことは一緒に説明書を読んで。

少し失敗しそうになって笑って。

そんな時間さえ、二人にとっては大切な思い出になった気がします。


もちろん、この一回で結果が出るなんて思っていません。

期待しすぎると、あとで落ち込んでしまうことも分かっています。


それでも、妊活が「つらいこと」だけじゃなく、二人で協力して乗り越えていく時間なんだと思えたこと。

それが、この日一番嬉しかったことでした。


静かな部屋で佐藤さんと並んで座りながら、「また一つ、二人で初めてを経験したね」そう思えた夜でした。

静かな部屋の中で佐藤さんと他愛もない話をしながら、わたしは「この人と一緒に頑張っていきたい」と、改めて強く思ったのでした。



次回へ続きます。