夜景を眺めながら、しばらく二人で歩いていました。
潮風が気持ちよくて、時間がゆっくり流れているように感じます。
「そろそろ、ご飯食べに行こうか」
佐藤さんがそう言いました。
「うん、お腹空いた」
二人で駐車場へ戻ります。
その時でした。
「あれ?」
佐藤さんがポケットを触りながら首をかしげます。
「どうしたの?」
「⋯鍵がない」
「え?」
「車の鍵」
その一言で、二人とも一気に現実へ引き戻されました。
「さっきまであったよね?」
「うん⋯たぶん」
二人で慌てて、さっき歩いてきた遊歩道を引き返します。
スマホのライトを照らしながら、ベンチの周りや植え込みまで探しました。
「ない⋯」
「どこ行ったんだろう」
佐藤さんも少し焦っています。
その姿を見て、わたしまでソワソワしてきました。
しばらく探していると
「あった!」
わたしが思わず声を上げます。
遊歩道の端にある自動販売機の前。
車の鍵が落ちていました。
「よかったぁ⋯」
佐藤さんは心底ホッとしたように笑います。
「今日一番焦ったかも」
「ほんとだね」
さっきまで感動していたのに、今度は二人で大笑い。
そんなドタバタも、なんだか楽しかったんです。
そのあと近くのイタリアンのお店へ入りました。
席へ案内されて、注文を済ませた時でした。
聞き覚えのある声がします。
振り向くと、そこには女性二人組。
そのうちの一人は――美咲さんでした。
「あっ、ななさん!」
視線を感じた美咲さんがわたしに気付きます。
「偶然!」
そう言いながら席まで来てくれました。
「こんばんは!」
わたしが挨拶すると、美咲さんは隣にいる佐藤さんへ視線を向けます。
「こちら⋯?」
「あ、彼氏です」
わたしがそう紹介すると、佐藤さんも軽く頭を下げました。
「佐藤です、初めまして」
すると美咲さんは、一瞬だけ驚いたような顔をしたあと
「あっ長野です、初めまして」
美咲さん苗字は長野って言うんだ、と思っていると、次に笑いながら言ったんです。
「えー!ななさん、切り替え早ーい!」
その場は笑いながら言った一言でした。
でも、その言葉が冗談だったのか、それとも本音だったのか。わたしには分かりませんでした。
思わず苦笑いするしかありません。
佐藤さんも横で笑っていました。
美咲さんは
「ごめんごめん、じゃあ邪魔しちゃ悪いから」
そう言って、自分の席へ戻っていきました。
その後ろ姿を見送りながら、わたしは何とも言えない気持ちになっていたんです。
次回へ続きます。