「ごめんなさい⋯」
その一言だけが、やっと口から出ました。
「えっ、ななさん?どうしたの?」
佐藤さんの声が一気に心配そうになります。
「何かあった?」
わたしは答えられませんでした。
黙ったまま、涙だけが止まりません。
すると佐藤さんは、急かすことも責めることもせず、静かに言いました。
「大丈夫、落ち着いてからでいいよ
ゆっくり話して」
その言葉に、また涙があふれてきます。
この人は、どうしてこんなに優しいんだろう。
わたしは深呼吸をして、ようやく口を開きました。「今日⋯元彼が職場に来たの」
電話の向こうが静かになります。
でも、それは驚いている沈黙であって、怒っている沈黙ではありませんでした。
「⋯そっか」
佐藤さんは静かに返事をしました。
「急に?」
「うん⋯」
わたしはあったことを、一つずつ話しました。
電話が掛かってきたこと。
会えないと断ったこと。
それでも職場まで来たこと。
Fさんが間に入ってくれたこと。
全部。包み隠さず話しました。
話し終える頃には、涙も少し落ち着いていました。
しばらく沈黙が流れます。
正直、怖かったんです。
「どうして返信したの?」
そう責められるかもしれない。
「まだ元彼のこと好きなんだ?」
そう思われるかもしれない。
そんなことばかり考えていました。
次回へ続きます。
