「なな」
Fさんが少し真剣な表情になります。
「優しいから、相手の気持ちばっかり考えちゃうんだろうけど、今日のことで、ななが悪いところは一つもないから」
その言葉を聞いた瞬間、張りつめていたものが少しだけほどけました。
わたしはずっと
「期待させるようなことをしたのかな」
「返信したからいけなかったのかな」
そんなことばかり考えていたんです。
でも、もう終わりにしようと決めたのは、わたし。
会わないと伝えたのも、わたし。
それなのに職場まで来たのは、裕太自身の判断でした。
そこまで自分が背負う必要はない。
そう思えたんです。
「ありがとう」
自然と、その言葉が出ました。
Fさんは笑って
「今日はもう気にしないで仕事しよ」
そう言って売り場へ戻っていきました。
わたしも深呼吸をして、自分の持ち場へ戻ります。
でもその日の閉店後。
店のシャッターも締め終わって帰る支度をしていました。
ふとスマホを見ると、佐藤さんから着信が入っていました。
慌てて掛け直します。
「もしもし」
「ななさん、お疲れさま」
いつもの優しい声。
それを聞いた瞬間、今日一日、張りつめていた糸が切れたみたいに、涙があふれてしまいました。
「えっ、ななさん?どうした?」
佐藤さんの慌てた声が聞こえます。
わたしは涙をぬぐいながら
「ごめんなさい⋯⋯」
それしか言えませんでした。
この出来事を話すべきなのか。
それとも、胸の中にしまっておくべきなのか。
わたしは電話を握りしめたまま、答えを探していたんです。
次回へ続きます。