「大丈夫?」

Fさんがもう一度、心配そうに声を掛けてくれました。

わたしは我に返って、小さく頷きます。


「⋯⋯ごめんなさい、仕事中なのに」

Fさんは首を横に振りました。

「謝ることじゃないよ、でもさっきの人⋯」

そこで言葉を切ります。

無理に聞こうとはしませんでした。

その気遣いがありがたかったんです。


「元彼です」

わたしは、自分から話しました。

Fさんは少し驚いた表情を見せましたが、それ以上は何も言いません。

「そうだったんだ」

その一言だけ。

それだけで十分でした。


「昨日電話が掛かってきて⋯⋯

もう会わないって伝えたんです

それなのに」

そこまで言うと、胸がいっぱいになってしまいました。


Fさんは静かにため息をつきます。

「会わないって言われて職場まで来るのは、ちょっとやり過ぎだな」

その言葉に、わたしも小さく頷きました。


さっきまでは

「どうして来たんだろう」

そんなことばかり考えていました。

でも、Fさんにそう言われて初めて

"普通じゃないことだった"

と気付いたんです。



次回へ続きます。