「お客様ですか?」

その一言で、裕太とFさんの視線がぶつかりました。

一瞬だけ、空気が止まります。


わたしは慌てて言いました。

「えっと⋯」

どう説明したらいいか分からない。


すると裕太が先に口を開きました。

「知り合いです」

Fさんは裕太をじっと見つめます。

「そうなんですね」

笑顔ではありました。

でも、その目は笑っていませんでした。


わたしは二人の間に流れる空気に息苦しさを感じます。

お願いだから。

ここで何も起きないで。

そう願った、その時でした。


「なな」

裕太がもう一度わたしの名前を呼びました。

「俺、まだ諦められない」

その言葉に、Fさんの表情が変わります。


そして静かに一歩前へ出て、わたしをかばうように裕太との間へ入りました。

「ここは職場です」

Fさんは落ち着いた声で言います。

「続きは外で話してください

それができないなら、お帰りください」

その声は静かでした。

でも、有無を言わせない強さがありました。


裕太はFさんを見つめ、それからわたしを見ます。何か言いたそうでした。

でも結局、小さく頷くと

「⋯ごめん」

そう言って店を出て行ったんです。


姿が見えなくなった瞬間、全身の力が抜けました。「大丈夫?」

Fさんが心配そうに声を掛けてくれます。

わたしは何も答えられませんでした。


ただ、どうして裕太は、職場にまで来たんだろう。そのことだけが、頭から離れなかったんです。


次回へ続きます。