『うん😊 行きたい』

送信ボタンを押した瞬間、不思議なくらい肩の力が抜けました。

さっきまであんなに苦しかったのに。

たった一通の返信で、心が少しだけ軽くなった気がしたんです。


すぐに既読が付きました。

『よかった😊

じゃあ土曜日空けておいて

楽しみにしてる』

その三行を見て、思わず笑ってしまいました。


佐藤さんは、いつも未来の約束をしてくれる。

「今度は三人で来よう」

「名前で呼んで」

そして今度は

「土曜日、一緒に行こう」

過去じゃなく、未来の話ばかり。

そのことが、少し嬉しかったんです。

わたしはスマホをバッグへしまい、ゆっくり歩き始めました。

これで本当に終わった。

裕太とは、もう終わった。

そう思えたはずでした。


翌日。

仕事へ行くと、朝から店長が慌ただしく走り回っていました。

「高橋さん!

今日、本社から応援が来るからお願いね!」

「分かりました」

そう返事をして売り場へ向かいます。


しばらくすると、入口の方から聞き慣れた声がしました。

「お疲れさまです」

振り向くと、Fさんでした。

「今日は応援?」

「うん。また人が足りないらしくて」

Fさんは笑いながら近付いてきます。


昨日の飲み会で話したばかりなのに、仕事になるとお互い自然と距離を保っていました。

その距離感が心地良かったんです。


「そういえば」

商品の整理をしながらFさんが小さな声で言いました。

「昨日、ちゃんと眠れた?」

わたしは少しだけ笑います。

「うん。一昨日よりは」

「そっか」

Fさんも安心したように笑いました。

「なら良かった」

その一言だけ。


それ以上、裕太のことも、佐藤さんのことも聞いてきません。

わたしは少しだけホッとしました。


その時でした。

店内放送が流れます。

「○○売り場の高橋さん、お客様がお呼びです」

誰だろう。


そう思いながらサービスカウンターへ向かうと、一人の男性が立っていました。

帽子を深くかぶり、マスクをしているその人は、わたしの姿を見ると静かに顔を上げました。


その目を見た瞬間、全身の血の気が引いたんです。


「⋯裕太?」

マッチングアプリも消した。

電話も終わった。

これで本当に終わったと思っていたのに。

まさか会社まで来るなんて。


次回へ続きます。