「ななさ、本当に幸せじゃない理由って、それだけなの?」

わたしは顔を上げました。


「子どもができないことだけで、自分の人生全部を不幸だって決めちゃってない?」

その言葉に、何も返せません。


Fさんは続けます。

「もちろん子どもが欲しい気持ちは分かるよ

でもさ、子どもがいる人が全員幸せなわけじゃない

逆に子どもがいなくても幸せな人だって、たくさんいる

幸せって、子どもがいるかいないかで決まるもんじゃないと思う」

わたしは黙って聞いていました。


「結局、自分が今ある幸せを見ようとしてるかどうかなんじゃないかな」

その言葉が胸に刺さります。


わたしは思わず苦笑いしました。

「そんな簡単に切り替えられたら苦労しないよ」

Fさんも笑います。

「まあ、それはそうだな」

少しだけ二人の間の空気が和らぎました。


Fさんは真剣な表情に戻ります。

「でも一つだけ言わせて、佐藤さんって、ななの話を聞いてる限り、本当にいい人なんだろ?

だったら、その人がくれてる幸せまで、自分で見えなくしちゃダメだよ

子どもが欲しいっていう願いと、今幸せかどうかは、別の話だから」

その言葉に、わたしは何も言えませんでした。

グラスの氷が、カランと小さく音を立てます。


Fさんの言っていることは、きっと正しい。

でも、頭では分かっていても、心はそんなに簡単には追いついてくれませんでした。


わたしはただ、小さく「そうだね」と答えることしかできなかったんです。


次回へ続きます。