翌日。
仕事が終わる時間が近付くにつれて、わたしは何となく落ち着きませんでした。
Fさんと飲みに行く約束。
ただ話を聞いてもらうだけ。
そう自分に言い聞かせても、どこか罪悪感があります。
佐藤さんには話していません。
隠そうと思ったわけじゃない。
でも、わざわざ言うことでもないと思ってしまった。
恋愛感情なんてないのだから。
仕事を終え、従業員用のお手洗いで化粧直しをしているとスマホが震えました。
佐藤さんです。
『仕事終わった?😊』
わたしは一瞬、返信する指が止まりました。
このあと元彼のFさんと会う。
そう打つべきなのかな。
でも結局
『今終わったよ😊』
それだけ送りました。
すぐ返信が来ます。
『お疲れさま😊今日も電話できそう?』
胸がチクリと痛みました。
『今日はちょっと友達と約束があって💦帰ったら連絡するね』
完全な嘘ではありません。
でも
「元彼と飲みに行く」
その一番大事な部分は隠していました。
『了解😊楽しんできてね』
その優しさが、余計に苦しかったんです。
スマホをバッグへしまい、待ち合わせ場所へ向かいます。
Fさんはもう先に着いていました。
「お疲れ」
「お疲れさま」
軽く手を挙げるFさん。
昔付き合っていた頃と同じ笑顔。
でも、不思議とドキドキはしませんでした。
「何飲む?」
そんな何気ない会話をしながら席へ座ります。
乾杯をして少し話した頃でした。
Fさんが急に真面目な顔になったんです。
「ななさ、昨日"色々ある"って言ってたよね
俺さ、元彼だからっていうんじゃなくて、一人の友達として聞くけど⋯⋯今、幸せ?」
その質問にわたしは言葉を失ってしまいました。
幸せ。
その一言なのに。どうしてこんなに答えられないんだろう。
グラスを見つめたまま、小さく息を吐いたんです。