わたしはスマホを胸の上に置いて、天井を見つめました。


少し前のわたしなら。この一言だけで飛び上がるくらい嬉しかったと思います。


仕事帰りでも。

夜中でも。

きっと会いに行っていた。


でも今は違う。

わたしには佐藤さんがいます。

未来を一緒に歩こうとしてくれている人。


「今度は三人で来よう」

そう笑ってくれた人。


その未来を壊したくない。

頭ではちゃんと分かっています。


それでも裕太からの

『ただ、ななに会いたい』

その一文だけが、何度も何度も頭の中で繰り返されていました。


その日はもう何も考えたくなくて、ただ眠って疲れを取りたかったから、そのまま眠りに付きました。


一晩眠ればわたしのザワザワした気持ちも少しは落ち着いて、一番いい選択肢が飛び出るように浮かんで来るような気がして、ただ眠りに着くことだけに集中した。



朝。
目が覚めても、しばらく天井を見つめたまま動けませんでした。
昨日の夜の出来事が、頭の中で何度も繰り返されます。

「会って話せない?」
そして。
「本当は、ただななに会いたい」
その言葉。

夢だったんじゃないかと思ってスマホを見ると、ちゃんと通話履歴も、マッチングアプリのメッセージも残っていました。
夢じゃなかった。
全部、本当に起きたことなんだ。

わたしはゆっくり体を起こして、大きく息を吐きました。
鏡を見ると、少しだけ寝不足の顔。
昨日は結局、何度も目が覚めてしまったんです。
佐藤さん。
裕太。
二人のことを考え続けていたから。

コーヒーを淹れてソファへ座ります。
温かい湯気を見つめながら、自分に言い聞かせました。
今日は何も考えない。
仕事に行って、いつも通り過ごそう。

そう決めた、その時でした。
スマホが震えたんです。
画面には――
佐藤さん。
『おはよう😊今日も一日頑張ろうね』
たったそれだけのLINE。
でも、その一言だけで昨日まで張りつめていた心が少しだけ緩みました。

やっぱり佐藤さんの言葉は安心する。

そう思いながら返信しようとした、その時。
昨夜の裕太の最後の言葉が、また頭の中に浮かんだんです。
「本当は、ただななに会いたい。」
その一言が、何度も心の中で反響していました。

佐藤さんへ返事を打つ指が、一瞬だけ止まります。
わたしはいったい、どうしたいんだろう。
そんな問いが、胸の奥で静かに膨らんでいったんです。


次回へ続きます。