電話を切ったあと、わたしは薄暗い部屋でぼんやりと裕太のことを色々と思っていました。


香織さんと別れていたこと。

そして、流産していたこと。

どちらも想像すらしていなかった出来事でした。


わたしはずっと

「裕太は新しい人生を歩いている」

そう思い込んでいたんです。

だからこそ、自分も前へ進まなきゃと思えた部分がありました。


でも現実は違いました。

裕太もまた、わたしの知らないところで苦しんでいた。

そう思うと胸の奥が重くなります。


その時でした。スマホが震えます。

また裕太でした。

LINEはまだブロックしたままなので、またマッチングアプリでメッセージを送ってきました。

『変な話してごめん

本当はこんなこと話すつもりじゃなかった』

続けて、もう一通。


『でも、ななだから話せた』

その一文を見た瞬間、わたしの指が止まりました。どうして。

どうして今さら、そんなことを言うの。

もし、この電話がもう少し前だったら、もし、佐藤さんと付き合う前だったら。

わたしはきっと、この言葉だけで気持ちが揺れていたと思います。


でも今は違う。

胸元には、佐藤さんからもらったルビーのネックレス。

わたしは無意識にそのハートを指先で触っていました。

温かい。

あの日、ディナークルーズで交わした約束。

「また来ようね」

「今度は三人で」

あの未来は、佐藤さんとだから見たい未来。

そう思える自分がいました。


わたしはマッチングアプリの裕太とのトーク画面を開き、ゆっくり文字を打ちます。

『話してくれてありがとう、つらかったね

でも、お互い前を向いて幸せになろうね』

送信ボタンを押したあと、不思議なくらい心が落ち着いていました。


これで、本当に終わる。

そう思った、その時でした。

裕太から、すぐに返信が届きます。

『⋯⋯実はさ、ななに、まだ言ってないことがある』

その一文を見た瞬間、わたしは思わず画面を見つめたまま固まってしまいました。


次回へ続きます。