「俺さ、ななさんには隠し事しないって決めてるんだ」
その一言で、心臓が止まりそうになりました。
まるで。
全部見透かされているような気がしたんです。
わたしは返事ができません。
沈黙が流れました。
「どうした?」
佐藤さんが少し不思議そうに聞きます。
「ううん……何でもない」
やっとの思いで、それだけ答えました。
「そっか」
佐藤さんは深く聞いてきませんでした。
その優しさが、余計に苦しかったんです。
電話を切ったあと、わたしはしばらくスマホを見つめていました。
佐藤さんとの通話履歴。
裕太とのマッチングアプリのやり取り。
まるで二つの世界が並んでいるみたいでした。
わたしはゆっくり息を吐きます。
「何やってるんだろう⋯⋯」
自然とその言葉が口からこぼれました。
わたしが欲しかったものは何だったんだろう。
裕太と復縁?
違う。
マッチングアプリで新しい人を探すこと?
それも違う。
わたしが欲しかったのは、ただ、不安を消したかっただけ。
佐藤さんを失うのが怖かった。
だから保険を作ろうとした。
でも、その保険のせいで、一番失いたくない人に隠し事をしている。
なんて皮肉なんだろう。
わたしはマッチングアプリを開きました。
裕太とのトーク画面。
『おやすみ』
短いメッセージが届いていました。
その一言を見た瞬間。
不思議なくらい何も感じなかったんです。
少し前なら
この「おやすみ」だけで幸せになれていた。
返信を待つ時間さえ楽しかった。
でも今は違う。
わたしが一番安心する場所は、もう裕太の隣じゃない。
さっき電話で
「一緒にのんびりタイムしたいなぁ」
そう柔らかい声で言っていた佐藤さんの隣だ。
そのことに、ようやく気付いたんです。
わたしは静かにアプリの設定画面を開きました。
今度こそ、逃げ道はいらない。
そう思って、「退会する」のボタンへ指を伸ばした。
ボタンを押そうと、フーッと息を吐いていると、スマホがまた震えたんです。
電話がかかってきました。
画面に表示された名前を見て、わたしは思わず息をのみました。
『裕太』
次回へ続きます。