「実はね⋯」
そう言って、わたしもバッグの中から小さな紙袋を取り出します。
「え?」
今度は佐藤さんが驚く番でした。
「ちゃんと用意してたんだ、一日違いの誕生日なんだから、お互いお祝いしたいなって思って」
佐藤さんは少し照れながら紙袋を受け取ります。
中に入っていたのは、シンプルな革のキーケース。落ち着いたネイビーの色で、仕事でも普段でも使えるデザインでした。
「佐藤さん、鍵をポケットにそのまま入れてるでしょ?だから、これなら毎日使えるかなって思って」佐藤さんは少し驚いた顔をしたあと、とても優しく笑いました。
「ありがとうこういうの欲しかったんだ、大事に使うね」
その笑顔を見られただけで、プレゼントを選んで良かったと思えました。
船は静かにクルージングを続けています。窓の外には、宝石を散りばめたような夜景。
その景色を二人で並んで眺めていると、佐藤さんが静かに口を開きました。
「今日来て良かった」
「うん、わたしも」
少し沈黙が流れます。
でも、その沈黙さえ心地良かったんです。
すると佐藤さんが夜景を見つめたまま、小さく笑いました。
「今度また来ようね」
「うん😊」
「今度は三人で来られたらいいな」
今日二度目です。
佐藤さんが「今度は三人で」と言ってくれたのは。
嬉しかった。
一度だけじゃない。
未来の話を、その場の雰囲気で言ったわけじゃない。
佐藤さんは、本当にそういう未来を思い描いてくれているんだ。
そう思えたことが、何より嬉しかったんです。
佐藤さんは続けます。
「子どもが生まれて、少し大きくなったらさ船なんてきっと喜ぶよね、夜景を見て『きれい』って言うのかな」
そんな未来の話を、ごく自然にしてくれる佐藤さん。
少し前のわたしなら、「もし授からなかったら」そんなことばかり考えていたと思います。
でも今日は違いました。
未来は誰にも分からない。
それでも、一緒に未来を想像してくれる人がいる。それだけで十分幸せなんだ。
そう思えたんです。
わたしは胸元のネックレスにそっと触れながら言いました。
「また来ようね、今度は三人で来られるように、妊活も一緒に頑張ろう」
佐藤さんは優しく頷いて
「うん、一緒に頑張ろう」
そう言って、そっとわたしの手を握ってくれました。
その温もりが嬉しくて。
夜景も、美味しかった料理も、素敵なプレゼントももちろん忘れられません。
でも、この日一番心に残ったのは、佐藤さんが二度も自然に、「三人で来たい」そう言ってくれたことでした。
未来を一緒に信じてくれる人がいる。
その幸せを胸いっぱいに感じながら、わたしは、この人と出会えて本当に良かったと、心から思いました。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
そう行って佐藤さんが席を立ちました。
わたしはその姿を見送りながら幸せを噛み締めつつ、ふとスマホを開きました。
マッチングアプリの通知をONにしたままだったので、いいねやメッセージの通知が届いています。
わたしは、佐藤さんだけが大切な男性なんだからマッチングアプリを消そう。
そう思った時、いいねをくれた一人の男性の名前が目に飛び込んできたんです。
胸がドキリと鳴り、そこから目が離せなくなりました。
次回へ続きます。