スマホに表示された名前は
「佐藤さん」
胸がドクンと大きく鳴りました。
慌てて通知を開きます。
「ごめん💦 本社の人たちと急遽ご飯になっちゃって、今やっと終わったよ」
その一文を見た瞬間、張りつめていた糸が切れたように、全身の力が抜けました。
やっぱり仕事だった。
ちゃんと理由があった。
続けてメッセージが届きます。
「連絡遅くなって本当にごめん」
「ななさん、不安にさせちゃったよね」
その言葉を見た瞬間、今度は安心ではなく、胸がズキッと痛みました。
わたしは何をしていたんだろう。
佐藤さんは、ちゃんとわたしのことを考えてくれていた。
それなのに。
わたしは不安に負けて、別のマッチングアプリを登録してしまった。
しかも、何人かとメッセージまで始めてしまった。
もちろん、本気じゃない。
会うつもりもない。
佐藤さん以上の人を探したかったわけでもない。
ただ
「もしもの時」
その保険が欲しかっただけ。
でも、理由がどうであれ、やってしまったことは変わりません。
わたしは急いでアプリを開きました。
さっきまで通知が鳴り続けていた画面。
「こんばんは」
「お仕事お疲れさまです」
「よかったら仲良くしてください」
そんなメッセージが並んでいます。
一つ一つ見ているうちに、急に虚しくなりました。
違う。
わたしが話したいのは、この人たちじゃない。
わたしが待っていたのは。
佐藤さんからのLINEだけだった。
そのことを、改めて思い知らされたんです。
わたしは迷わずアプリを閉じました。
そして、静かにアンインストールの画面を開きます。
指は確認ボタンの上で止まりました。
消そう。
もう必要ない。
そう思っているのに。
もし。
もし何かあったら。
その「もし」が、またわたしの指を止めました。
人って、不安になるとこんなにも弱くなるんですね。
わたしはスマホを握りしめたまま、小さく目を閉じました。
佐藤さんを信じたい。
でも、自分の弱さも消せない。
その夜は、自分自身との戦いでもありました。
次回へ続きます。
今回も読んでくれてありがとうございます。