わたしは静かに続けます。

「でも香織さんは違います」

「お腹の中に赤ちゃんがいます」

「簡単には離れられないと思います」

「だから感情だけじゃなくて、赤ちゃんのことも含めて、これから先のことをちゃんと話し合ってください」

「後悔しないように」

しばらく沈黙が流れました。


そして香織さんは、小さな声で言いました。

「⋯ありがとうございます」

「電話して良かったです」

その声は、最初よりも落ち着いて聞こえました。


「お体、大事にしてくださいね」

わたしがそう言うと

「ななさんも」

そう返ってきました。

それが最後でした。

電話は静かに切れました。

わたしはしばらくスマホを見つめていました。


そして、裕太とのトーク画面を開きます。

今まで何度この画面を開いたんだろう。

嬉しかった日も。

泣いた日も。

期待した日も。

全部ここにありました。

わたしは設定を開きます。


ブロック。


確認画面が表示されました。

迷いませんでした。

続けて、連絡先も削除します。

画面から裕太の名前が消えました。


前にもブロックしたことがあります。

でも、結局わたしは自分から会いに行ってしまいました。

「これで最後」

そう思っていたのに。

ズルズルと関係は続いてしまったんです。


でも今回は違います。

もう絶対に会わない。

もし会いに来ても、もし連絡する方法を探してきても、もう会わない。

そう決めました。


そして、その時ふと思い浮かんだのは、佐藤さんの笑顔でした。

病院の日を覚えていてくれた人。

わたしの体を気遣ってくれた人。

わたしを大切にしようとしてくれる人。

そんな人が、今のわたしには居る。


だったら、もう過去を追い掛けるのは終わりにしよう。

そう思ったんです。

本当に、裕太とはこれで終わりです。


次回へ続きます。