わたしはしばらく黙っていました。


スマホを握りしめたまま、何も言えません。

香織さんも、何も話しませんでした。

お互い、言葉を探していたんだと思います。


長い沈黙のあと、わたしはゆっくり口を開きました。

「⋯ごめんなさい」

自分でも意外な言葉でした。

「会って話すのは、やめておきます」

電話の向こうで、香織さんは何も言いません。


わたしは続けました。

「もちろん、香織さんが嫌とかじゃないんです」「むしろ、香織さんも被害者なんだと思います」「でも⋯」

一度言葉を切ります。


「会ったところで、何か変わる気がしないんです」今回、全部話したとしても。誤解が解けたとしても。

一度は解決したように見えるかもしれない。

でも、またいつか同じことが起きる。

また誰かが傷付く。

また誰かが泣く。

そんな気がしてなりませんでした。

「裕太は、きっとまた誰かを騙します」

静かにそう言いました。


「わたしも騙されました」

「香織さんも騙されました」

「たぶん、これで終わりじゃないと思います」

そう口にした瞬間、不思議と涙は出ませんでした。もう泣き疲れていたのかもしれません。


「だから、わたしはここで降ります」

その言葉は、自分自身に言い聞かせるようでもありました。

「もう裕太とは関わりません」

「もう終わりにします」

電話の向こうで、小さくすすり泣く声が聞こえました。


次回へ続きます。



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