気付けば今日の裕太の表情を思い出しています。
香織さんの話をしていた時の顔。
わたしを見た時の顔。
そして
「俺はななが好きなんだよ」
そう言った時の顔。
演技には見えませんでした。
少なくとも、その瞬間だけは本気だったと思います。
だから厄介なんです。
裕太は嘘をつく人じゃありません。
いや、正確には違います。
その時の気持ちだけは本当なんです。
でも、その本当が長続きしない。
だから周りが傷付く。
わたしも。
香織さんも。
真由さんも。
美咲さんも。
みんなそうでした。
分かっているんです頭では。
ちゃんと分かっている。
それなのに心だけが言うことを聞いてくれません。
もし、もし今裕太から『会いたい』ってLINEが来たら、わたしは断れるんだろうか。
考えた瞬間、自信がありませんでした。
断らなきゃいけない。
会ったらダメ。
そう思うのに会いたい気持ちの方が大きくなっている気がしたんです。
わたしは慌ててスマホを伏せました。
考えるな。
期待するな。
また傷付くだけ。
何度も自分に言い聞かせます。
でも、人の気持ちって不思議です。
忘れようとすると余計に思い出す。
離れようとすると余計に近付きたくなる。
気付けばスマホを手に取っていました。
LINEは来ていません。
当たり前です。
まだ会って数時間しか経っていないんですから。
それなのに、来ていないことに少しだけガッカリしている自分が居ました。
本当に救いようがないなと思います。
そして、その夜。眠る直前まで、わたしの頭の中に居たのは、佐藤さんでもなく、未来の旦那さん候補でもなく、裕太だったんです。
次回へ続きます。