すると香織さんが小さく言いました。 

「私はずっと信じてた」 

部屋が静かになります。 

「裕太なら大丈夫だと思ってた」
香織さんの目から涙がこぼれました。
「家族になると思ってた」
裕太が顔を上げます。
でも香織さんはもう見ていませんでした。
お腹に手を当てたまま俯いています。

その姿を見た瞬間。
裕太の母親が静かに言いました。
「裕太」
裕太が顔を向けます。
母親は真っ直ぐ息子を見ていました。
そして。
「あなた今、自分が苦しかった話しかしてないわね」
部屋が静まり返ります。
裕太が言葉を失いました。

母親は続けます。
「この人達がどれだけ苦しかったかは考えた?」
誰も動きません。
「香織さんがどれだけ不安だったか考えた?」
沈黙。
「ななさんがどれだけ傷付いたか考えた?」
沈黙。
「美咲さんや真由さんがどれだけ裏切られた気持ちだったか考えた?」
裕太は俯きました。

そして
母親が最後に言ったんです。
「泣きたいのはあなただけじゃないのよ」
その言葉に裕太は再び顔を覆いました。
でも、誰も慰めませんでした。

次回へ続きます。 



この頃は眠ろうとしても色々考えてしまい、夜中に目が覚めることも増えていました。