「ごめん」

裕太の声は震えていました。

でも、誰も何も言いませんでした。

わたしも。

美咲さんも。

香織さんも。

ただ黙っていました。


その沈黙を破ったのは真由さんでした。

「ごめん?」

真由さんは静かに聞き返します。

怒鳴っていません。

でも、その場の誰よりも冷たい声でした。


裕太が顔を上げます。

真由さんは続けました。

「それで終わりですか?」

裕太は言葉を失います。

「いや⋯」

何か言おうとします。

でも続きません。


真由さんは小さく笑いました。

「ごめんで済むと思ってるんですか?」

部屋が静まり返ります。

裕太は何も答えません。


真由さんは指を折りながら言いました。

「ななさんには妊活の話をした」

わたしの胸が痛みました。


「香織さんには結婚の話をした」

香織さんが俯きます。


「美咲さんには将来の話をした」

美咲さんは黙ったままでした。


そして

「私には私で特別みたいなこと言ってましたよね」裕太が目を閉じます。

真由さんは首を振りました。

 

「それ全部やっておいて」

少しだけ笑います。

でも全然笑っていません。

「ごめん?」

裕太は何も言えません。


真由さんは続けました。

「謝る相手が何人いるか分かってます?」

沈黙。


「傷付けた相手が何人いるか分かってます?」

沈黙。


「人生を狂わせたかもしれない相手が何人いるか分かってます?」

その言葉に香織さんが目を伏せました。

お腹をそっと押さえています。

誰も気付かないふりをしました。


真由さんは最後に言ったんです。

「ごめんはスタートであって終わりじゃないですよ」

裕太は俯いたままでした。


そして、初めてでした。

裕太が声を上げて泣き始めたのは。


次回へ続きます。



妊活中に飲んでいたルイボスティーだけが少し気持ちを落ち着かせてくれていました。