女性はこちらに向かって歩いてきました。

わたしの心臓はずっと落ち着きません。

近付いてくるにつれて、女性の表情がよく見えるようになりました。 


緊張しているようにも見えます。

でも、それだけじゃありませんでした。

どこか複雑そうな顔をしていました。


女性はテーブルの前まで来ると、小さく頭を下げました。

「初めまして」

そう言ったあと、少しだけ困ったように笑いました。

「⋯でも、初めましてじゃない気もします」

わたしは思わず顔を上げました。

美咲さんも黙っています。


女性は空いている席に座りました。

「真由です」

そう言って頭を下げます。

わたしも軽く会釈をしました。


数秒。

誰も何も話しませんでした。

妙な空気が流れます。

店員が注文を取りに来ました。

真由さんはわたしたちに合わせたのかは分からないけれど、同じようにホットコーヒーを注文しました。


最初に口を開いたのは真由さんでした。

「ななさんですよね」

わたしは頷きました。

そして聞きました。

「美咲さんから聞いたんですか?」

真由さんは少しだけ首を横に振りました。

「それもあります」

それも。

その言葉が引っ掛かりました。


真由さんは続けます。

「でも、名前だけならもっと前から知っていました」

わたしは固まりました。

もっと前から?

どういうこと?


「なんでですか?」

思わず聞いていました。

真由さんは一瞬だけ迷うような表情をしました。

そしてゆっくり言いました。


次回へ続きます。