「それで、その人は?」
わたしは聞きました。
美咲さんの表情が少し真面目になります。
「真由さんです」

また知らない名前でした。


わたしは思わずコーヒーカップに視線を落としました。
知らない女性が次々と出てきます。
少し前まで裕太とわたしの問題だと思っていたのに。
気付けば登場人物がどんどん増えていました。

「真由さんも、自分が一番大切にされていると思っていたそうです」
美咲さんが静かに言いました。
わたしは返事が出来ませんでした。

美咲さんも。
真由さんも。
そしてわたしも。
みんな同じことを思っていた。
そんなことってあるのでしょうか。

「最初は私も信じられなかったんです」
美咲さんはスマホを取り出しました。
「でも話しているうちに、色々なことが繋がってきて…」
そう言ってスマホの画面を見せてきました。

そこにはメモのようなものが表示されていました。
日付。
連絡が取れなくなった期間。
仕事が忙しいと言われた日。
体調不良だと言われた日。
わたしは思わず画面を覗き込みました。
見覚えのある言葉が並んでいます。
そして。


ある日付でわたしの手が止まりました。
「あ…」
思わず声が漏れます。

その日は裕太から、
『仕事が忙しくてしばらく連絡出来ない』
と言われていた頃でした。
連絡もほとんど来なくなって。
わたしは寂しくて。
でも仕事なら仕方ないと思っていました。
なのに。

美咲さんのメモにはその日、裕太と会っていたと書かれていました。
心臓が嫌な音を立てます。
「これ…」
わたしはその先を言えませんでした。
美咲さんも静かに頷きます。
店内には穏やかな音楽が流れていました。
でも今のわたしには何も聞こえません。
裕太はあの時、本当に仕事だったのでしょうか。
それとも。

そんなことを考えていた時でした。
美咲さんのスマホが震えました。
美咲さんが画面を見ます。
そして表情が変わりました。
「え⋯」
小さな声が漏れます。

「どうしたんですか?」
わたしが聞くと、
美咲さんはゆっくり顔を上げました。
そして言いました。

「真由さんからです」
わたしは固まりました。
美咲さんはスマホの画面を見つめたまま続けます。
「今、この店の前に居るそうです」

次回へ続きます。