約束の日になりました。


正直、行く直前まで迷っていました。

行かない方がいい気もしました。

でも気になる。

ここまで来てしまったら、もう聞かない方が後悔しそうでした。


わたしは指定されたカフェへ向かいました。

平日の昼間だったからか、店内はそれほど混んでいません。

女性はもう来ていました。

窓際の席に座っています。

わたしに気付くと立ち上がって小さく頭を下げました。


「あの日はすみませんでした」

開口一番そう言われました。

わたしは軽く会釈をして席に座りました。

すぐに店員が注文を聞きに来て二人ともホットコーヒーを注文しました。

何を話せばいいのか分かりません。

女性も少し緊張しているようでした。


しばらく沈黙が続いたあと、女性が口を開きました。

「まず最初に謝らせてください」

そう言って深く頭を下げました。

「婚約者だと言ったことです」

わたしは思わず女性の顔を見ました。


「違うんですか?」

女性は苦笑いしました。

「違います」

頭が追い付きませんでした。


違う?

でもあの日、この人は確かに婚約者だと言いました。

「じゃあなんだったんですか?」

わたしが聞くと、女性は少し言いづらそうに視線を落としました。

「わたしも、その時は婚約者だと思っていました」意味が分かりません。

思っていました?

「裕太くんにそう言われていたので」

わたしは言葉を失いました。 


女性は続けます。

「でも、あの日あなたが帰ったあと色々話を聞いて、おかしいことがたくさん出てきて…」

カップを持つ手が少し震えていました。

「わたし以外にも女性が居ることも、その日に知りました」

わたしは思わず息を呑みました。


女性はわたしを見ました。

そして小さな声で言いました。

「ななさんは、裕太くんとどのくらいの付き合いだったんですか?」

その質問を聞いた瞬間。

わたしは嫌な予感がしました。


もしかしたら。

わたしが知らないことは、まだまだあるのかもしれません。


次回へ続きます。