女性だけが場を回しています。

その状況が、どうしようもなく嫌でした。


「わたし、帰ります」

そう言った時でした。

「あ、待ってください」

女性がわたしを引き止めました。

わたしは足を止めました。


「本当に何も知らなかったんです」

女性は申し訳なさそうに言いました。

何のことだろうと思いました。


すると女性は裕太の方を見ました。

「ちゃんと説明した方がいいと思う」

その瞬間、裕太の顔色が変わりました。


嫌な予感がしました。

女性は少し迷ったあと、小さな声で言いました。

「私たち、婚約してるんです」

頭の中が真っ白になりました。


え?今なんて言った?婚約?

わたしは裕太を見ました。

裕太は俯いたままです。

否定しません。


「嘘だよね?」

わたしはそう聞きました。

でも裕太は何も答えません。


女性は泣きそうな顔をしていました。

「ごめんなさい。本当に知らなかったんです」

知らなかった。

その言葉だけが頭の中で何度も繰り返されます。


知らなかったのはわたしも同じでした。

裕太はわたしにも、女性にも、本当のことを話していなかったのです。


その瞬間、悲しいとか悔しいとかより先に、力が抜けました。

もう何も聞きたくありませんでした。 


次回へ続きます。