「誤解って何ですか?」
気付いたらわたしはそう聞いていました。
女性は少し驚いたような顔をしました。
年齢は三十代半ばくらいでしょうか。
落ち着いた雰囲気の人でした。
「え?」
女性は困ったように笑いました。
「いや、本当に変な意味じゃなくて…」
そう言いながら裕太を見ます。
まるで助けを求めるみたいに。
でも裕太は相変わらず何も言いません。
「私、裕太くんから詳しいこと聞いてなくて」
女性は申し訳なさそうに言いました。
その言い方も妙に引っ掛かりました。
詳しいことは聞いてない。
でも何かは聞いている。
そんな言い方でした。
「そうなんですね」
わたしはそう返しました。
女性はホッとしたように笑いました。
「ごめんなさいね。私、人間関係とかよく分からなくて」
そう言いながら、さりげなく裕太の近くに立ちます。
距離が近い。
でも本人は全く意識していないような顔です。
だから余計に嫌でした。
「ななさん、でしたっけ?」
女性が聞いてきました。
なんでわたしの名前知ってるの?
そう思ったけど聞けませんでした。
「はい」
「良かった。裕太くんが言ってた通り優しそうな人ですね」
わたしの背筋が少しだけぞわっとしました。
言ってた通り?
わたしのことを話していたんだ。
じゃあこの人は何も知らないわけじゃない。
でも女性は悪気のない笑顔のままです。
「私だったら突然知らない女がいたらびっくりしちゃいますもん」
そう言って小さく笑いました。
優しい言葉のはずなのに。
なぜか責められている気分になりました。
わたしが気にしすぎなのでしょうか。
それとも。
裕太は相変わらず黙ったままです。
女性だけが場を回しています。
その状況が、どうしようもなく嫌でした。
次回へ続きます。