【柔道部物語:真夏の夜の出来事】
現在の様にエアコンなど一般的に普及していなかった、昭和の終わり頃に、体育寮で先輩に起こった不幸な出来事を皆さんへお伝えしようと思いますので、しばしの間お付き合い願います。
我々格闘技系の部活は、大学敷地内にある鉄筋5階建ての体育寮で部活別に生活をしています。1階には、玄関・食堂(厨房)・大浴場・舎監部屋(住み込みの調理員)があり、細長い廊下を中心に左右の各部屋が設置され、学生が利用しています。
当時の柔道部は、1階部分を上級生と下級生の組み合わせで暮らし、裏庭側の部屋では、6畳間の奥に位置する窓から陽が当たらない裏庭の景色が広がり、夏の暑い時期などは、窓を1日中開けて、蒸し暑い日々をしのいでおりました。
ある蒸し暑い土曜日の夜、裏庭に面した部屋で先輩と後輩の2人が酒盛りを行っていると、お約束の怖い話となり、かなり盛り上がっておりました。
お酒も入っていた為か、深夜になっても怖い話が尽きる事なく、お互い恐怖がマックスに達した時、開け放った裏庭の窓から突然「オイ!」と謎の声と共に、黒い人影があらわれました。
怖い話で、恐怖が最高潮に達していた2人は、突然の訪問者に大変驚き、腰を抜かしながら、廊下へ逃げる為、扉に突進し必死な形相で廊下に逃げようとしました。
残念ながら、廊下に繋がる扉は、体重100㎏以上ある2人が通れる程の幅が無い為、扉に挟まれた2人は、先輩後輩関係なしで我先に逃れようと醜い生存競争を行っておりました。
しばらくの間、もがきながら扉に挟まっているうちに、冷静になり、窓の方へ目線を向けてみると、そこには、舎監のおじさん(住み込み)が立っておりました。
どうやら、深夜になっても電気がついている部屋があるので、心配して裏庭の窓側から声をかけた様でした。
人は、恐怖に駆られると生存本能が優先し、先輩後輩も無く醜い争いになると、お酒の席でしみじみと、学生時代のお話を聞かせてくださいました。
顔面凶器の様な風貌の先輩が40年以上前の思い出話をしている横顔は、イタズラ坊主の様にキラキラしておりました。
