【理研のふえるわかめちゃん】
水で戻すだけで簡単に新鮮なワカメになる乾燥わかめと言えば、「理研のわかめちゃん」を思いうかべる方も多くおられると思います。今回は、そんな「乾燥わかめ」の開発にまつわる、お話をさせていただきたいと思いますので、しばしお付き合い願います。
「理研のわかめちゃん」を販売している「理研ビタミン」は、1917年(大正6年)に設立された「財団法人理化学研究所」からビタミンA製造部門を独立させた食品メーカーです。
ビタミンAを抽出する技術を利用し、スープの素やヘルスケア商品、ドレッシングに至るまで開発・販売する企業です。
ある時、魚の肝油からビタミンAを抽出する為、全国の漁師と親密な関係となり「わかめの養殖できるらしい」という情報を入手しました。
当時、わかめを食べるのは、日本と韓国だけで、わかめ養殖をしている漁師も少なく、大変狭いマーケットでした。
わかめ自体は、古くから塩蔵して利用しておりましたが、塩抜きやカットなど手間のかかる食品でしたので、1965年には、わかめの仕入れルートを確立し「生わかめ・わかめちゃん」を家庭用食品として発売しました。
1976年になると、「保存性が高く、より簡便なもの」というニーズに合わせ、乾燥カットわかめ「ふえるわかめちゃん」を開発し、発売されました。
乾燥わかめは、ラーメン・味噌汁・スープやサラダなどに使用され、現在も大人気のロングセラー商品となりました。
当初の乾燥わかめは、棒状のワカメを水で戻し、カットして使用していた為、もっと簡単に使用できる形で乾燥させられる乾燥機は無いものかと、開発者たちが模索していた所、お茶っ葉を収穫し、蒸したあとに乾燥させるドラム式の回転乾燥機に注目しました。
ドラム式の回転乾燥機は、中身を回転させながら乾燥させるため、カットした生わかめを均一にロール乾燥してくれた為、このお茶用の回転乾燥機を改造し、「ふえるわかめちゃん」が誕生致しました。
わかめの収穫時は、2~5m程あり、1本500g~1kgで、「ふえるわかめちゃん®」1~2袋分の量となり、これだけの大きさのものが、あんなにコンパクトな袋に入っているのには、驚きで、これを数百円で売っては儲けがない様に思われますが、わかめの
養殖場が広大で大量生産できる為、安価で提供できる様です。
養殖とはいえ海から採れるものであり、戻ししてすぐに人の口に入る食品なので、異物混入の危険性がある為、製造工場では洗浄などの工程を徹底し、異物検査は15工程あり、風力選別、磁力選別、色彩選別、X線、金属検出などありえない程、多く行っています。
主力事業のビタミンA抽出とは別ラインで進められてきた「ふえるわかめちゃん」の開発でしたが、両者の生産ラインが融合することで大ヒット「わかめスープ」が誕生しました。
この「わかめスープ」は、ビタミン抽出のラインで開発されたホタテエキスで調味した顆粒状のスープと「ふえるわかめちゃん」を合わせた即席スープで、このコンビネーションが、見事大ヒットにつながったのです。
理研ビタミンの母体が、日本の化学技術の最高峰である「理化学研究所」である事が強みであり、知見を多角的に活用した良い例で、最初の肝油ビジネスの段階で、漁港との繋がりから「わかめの養殖ができる」「それならば売ってみよう」と新しい事へのチャレンジ精神から「ふえるわかめちゃん」が生まれ、そして「わかめスープ」の誕生となりました。
他分野へのチャレンジと継続、それらが熟した時に起こる、既存の技術との融合こそが成功の鍵かもしれませんね。
今夜は、乾燥わかめを使用した献立でも食べながら、科学の偉大さを感じる事と致しましょう。

