こんにちは。
少し前に読んだ、山内マリコさんのあのこは貴族について感想を書きたいと思います。
山内マリコさん (幻冬舎HP、新潮社HPより)
1980年富山県生まれ。
14歳から作家になる夢をもち、映画好きだったため大阪芸術大学の映像学科に進む。
2008年に第7回R-18文学賞・読者賞を受賞。
31歳でデビュー単行本ここは退屈迎えにきて刊行。
2016年刊行のあのこは貴族は映画化されている。
あらすじ (「BOOK」データベースより)
東京生まれの箱入り娘・華子は、結婚を焦ってお見合いを重ね、ついにハンサムな弁護士・青木幸一郎と出会う。
一方、地方生まれの上京組・美紀は猛勉強の末に慶應大学に入るも金欠で中退。
現在はIT企業に勤めながら、腐れ縁の幸一郎との関係に悩み中。
境遇の全く違う2人が、やがて同じ男をきっかけにめぐり合い…
“上流階級“を舞台にアラサー女子たちの葛藤と解放を描く長編。
気に入ったフレーズ
女にとって二十代のうちの2年がどれだけ貴重な時間か、男の人には永遠にわからないだろう。
彼女自身の社会経験の低さに反比例した
夫の社会的地位の高さのせいか、
本人に自覚はないが驕慢な態度が骨の髄まで染み付き、
悪意のない決めつけや高みに立った正論ばかり口にした。
三十代になって結果が出るから、
二十代のうちは自分への投資だと思ってどんどん好きなことをやってみればいいよと発破をかけられる
この人は本当のところ、恥というものを描いたことがないのではないかというような、一本太い神経が背骨に通っている感じ。「照れますね」と言いつつ、微塵も羞恥を感じさせない控えめな尊大さ。
幸一郎が本気で笑うと、わずかにだが人を軽蔑するようなニュアンスが滲む。
自分が一番正しいと信じて疑わない、自分のものさしでしか人をはかれない、狭い世界に君臨してきた女性。そういうおばさまは往々にして、美しいものや文化をこよなく愛し教養もあるが、なぜかそれが内面の寛容さには一切結びつかないのだった。
女性は外見をどう作り込んでいるかで、いろんなことがわかる。趣味嗜好も、パーソナリティも、おおよその金銭事情も、願望も、その全てが外見から発信される。
感想です
まず、表紙の女性の絵がとっても素敵で、読んでみたいなという気持ちが掻き立てられます。
そして、東京の地名や、ホテル、ブランドなどの固有名詞がたっぷり出てきます。
そのぶん具体的にイメージが湧きやすいです。
また、前半に華子(“上流階級“)の視点、後半に美紀(上京組)の視点とわかれており、
それぞれの立場からの東京に対する捉え方の違いが分かりやすいです。
私は東京そだちで地方の大学に行ったのでどちらとも立場は違いますが、どちらの捉え方も理解ができました。
本当に東京って住む場所によって急に見え方が変わりますよね。
途中、華子と幸一郎のこんなやりとりがあります。
「じゃあ、僕の奥さんになってくれる?」
「え?」
なんの照れもなく、あまりにはっきりとそれを口にするので、華子は驚いてしまう。
「嫌?」
幸一郎は謙虚にたずねながらも、そのプロポーズにはほんのわずかに、微かに、おちょくるような色合いがあった。
これは年齢差からくるものなのか、それとも、自分が“超優良物件“であるという圧倒的な自信からくるものなのかはわからないが。
ここを読んで、高慢と偏見のダーシーがエリザベスに初めて告白するときを想起しました。
エリザベスと華子では、返答が全く違いますね笑
個人的には、
結婚半年で離婚届を出し、それが成立する展開があまりにも急で短絡的かなあと思うのと、そこについての華子の葛藤をもう少し描いてほしいかなという気がしました。
後は離婚後に再会した際の幸一郎と華子のやりとりがさっぱりしすぎているのもいまいち深みがないかなと思いました。
あとは、美紀が英語の勉強を再開した件が仕事の伏線になっているのかと思いきや、地元の再興の仕事に携わることになっていましたね。
全体を通して見ると、もう少し距離を置いたメタ的な視点の方の記述の方が好みかなというのと、故意なのかほんのりチープな印象を受けました。
ただ、アラサー女子の心情描写など洞察が深いなーと思う記述も多くて、身近なだけに面白かったです。
有難うございました。