こんにちは。

 

フランス革命後の作家、スタンダールの赤と黒を読み終わったので感想を書きたいと思います。

 

新潮文庫のものを読んだので、以下スタンダール自身と作品に関しては巻末の小林正さんの解説をかいつまんでご紹介します。

 

なんだかとても長くなってしまっていますが、すみません。

 

 

 

スタンダール

本名をアンリ・ベールという。

1783年フランスのグルノーブルで生まれる。

 

父は弁護士であり、恵まれた家庭であった。

しかし父が保守的で気難しい性格であったことや、

家庭教師のカトリック神父の教えに反感を覚え、宗教や偽善を毛嫌いするようになる。

 

中学時代は数学が得意であり、理工科大学受験のためパリへ赴く。

1789年フランス革命でパリは大混乱。スタンダールは神経衰弱のため受験をせず。

 

その後ナポレオンのイタリア遠征に同行し、ミラノへ。この経験からスタンダールのイタリア礼讃がはじまる。

その後は経理官としてナポレオン軍に従軍する。

 

1812年にロシア遠征でモスクワに行くも大火に遭い帰国。

1814年ナポレオン敗北。

ブルボン王家が支配するフランスを嫌厭し、スタンダールはミラノへ。

当時北イタリアはオーストリアの支配下であり、

スタンダールはイタリア解放運動の秘密結社「炭焼党(カルボナーリ)」の一味と疑われ、1821年 国外退去を余儀なくされる。

 

その後パリ(王政復古の時代。ルイ18世&シャルル10世)で社交生活を送る。

1830年 赤と黒執筆。執筆中に七月革命が起き、ルイ=フィリップを国民の王として自由主義の時代となる。

 

その後はローマ法皇領駐在のフランス領事として、ローマ近くのチヴィタヴェッキアで領事生活の傍ら執筆活動を続ける。

 

1842年パリ帰省のおり卒中を起こして59歳で死去。

 

生存中はほとんど顧みられず、20世紀になってフランス近代小説の代表的な作家として注目されるようになる。

 

 

作品のあらすじ、解説です。

 

あらすじ

製材小屋の倅として生まれ、父や兄から絶えず虐待され、暗い日々を送るジュリヤン・ソレル。彼は華奢な体つきとデリケートな美貌の持ち主だが、不屈の強靭な意志をうちに秘め、街を支配するブルジョアに対する激しい憎悪の念に燃えていた。

僧侶になって出世しようという野心を抱いていたジュリヤンは、たまたま町長レーナル家の家庭教師になり、純真な夫人を誘惑してしまう…

 

 

解説

フランス革命後の王政復古の時代が背景。

 

大革命で亡命を経験した貴族階級やイエズス会が作り上げた保守的な社会を糾弾し、醸成されつつあった民衆の怒りを捉えようとする作品。

 

作品の素材としては、現実に起こった犯罪事件(ラファルグ事件と、ベルテ事件)がある。

ラファルグ事件は、1829年フランスの青年アドリヤン・ラファルグという建具屋が浮気な情夫を射殺して自殺を企てたが、失敗し、公判の結果死刑を免れて禁錮5年の刑に処せられた平凡な痴情沙汰。

 

スタンダールはこの事件を見事な情熱の犯罪だとみなし、

「パリ社会の上昇階級が強い、しっかりした、ものを感じる力を失いつつある一方、情熱は小市民階級の間で恐るべきエネルギーを発揮している。

(中略)おそらくこれからの偉大な人物は全て、ラファルグ氏の属する階級から生まれるであろう」

と言及している。

 

ベルテ事件とは、1827年フランスの小さな村の教会で、鍛冶屋の倅の元神学生のアントワーヌ・ベルテが、ミサの最中、跪いていたミシュー・ド・ラ・トゥール布陣をピストルで狙撃し、重傷を負わせた事件。

 

作品を読んだ方であれば、筋書きにこれらの事件が大きく寄与していることがわかるかと思います。

 

また、下巻のマチルドのキャラクターに関しては、

(当時シャルル10世の大臣の姪の駆け落ち事件がヒントになっているようです。

このマリー・ド・ヌーヴィル派幼馴染のグラッセとロンドンに駆け落ちしたものの、まもなく実家に帰ると、もはやグラッセと口を聞こうともせず、求婚もはねのけてしまったとのこと。)

 

 

また、題名の赤と黒の意味が気になりますよね

一つの意見としては当時色の名を表題にすることが流行っていたからというものがありますが、

小林さんの解説では

 

赤がナポレオン時代の栄光を、黒は聖職者の黒衣、すなわち修道会の野望を象徴している

 

あるいはもう少し拡大すると、赤が大革命および帝政時代、エネルギーを大胆に発揮する行動の時代を、黒は王政復古の時代、退嬰的な陰鬱な時代を意味すると考えられる

 

ということだそうです。なるほど。

 

 

 

 

今回は長くなりそうなので、気に入ったフレーズは少しにします。

 

ジュリヤンはつとめて、この風変わりな友情を誇張して考えまいとした。自分の方から、この友情を、武装通商に似ていると決めていた。

毎日顔を合わせても、前日の親密に近い態度を取り戻すまでは、「今日は味方か敵か」と探り合うようなものだった。

 

私のような娘の運命は、何もかも、人と違っていなくてはならない、とマチルドはイライラしながら叫んだ。

 

すると、九時ごろ、ラ・モール嬢が図書室の戸口に姿を現し、ジュリヤンに手紙を投げつけると、逃げ去った。『どうやら書簡体の小説になりそうだな』と、ジュリヤンは手紙を拾い上げながら、つぶやいた。『敵は誘いの手に出たな。それなら、俺の方は冷淡と徳義心で向かってやろう』

 

だが、断ったら、俺は後になって自分を軽蔑することになる。一生、この振る舞いが自分に対する疑惑の大きな種となるだろう。

 

大胆で、高慢な性格の持ち主の場合には、自分に腹を立てるのと、他人に当たり散らすのとは、紙一重のことである。

 

 

 

 

 

いやー、ちょっと読み終わるまで大変でした。

圧倒的に政治的な知識が浅く、場面によっては読むのに苦労しました。

 

でも、こんなにフランスの王政復古の時代を切に感じられる小説ってないのではないでしょうか。

身分だけでなく、信条によっても周りの人間の立場が分かれる時代。

ジュリヤンのような、低い身分で生まれて、家族にも虐げられてきたら、疑心でいっぱいなのは至極当然ですね。

 

 

ジュリヤンの心の中の葛藤の描写がとても繊細に描かれていて、野心の強い男性でもこんな気弱になることがあるんだなーと感心しました。

 

また

ジュリヤンの冷静な一方で情熱的だったり、計画的だと思っていたら突発的な行動をしたり

マチルドの高慢な一方で従属を求めるような態度をとったり

人間の二面性が特によく描かれているなーと思いました。

 

不安定な猜疑心に満ちた社会において、理知的なジュリヤンが恋愛や立身出世をめぐって見せる情熱や野心がとってもスリリングで、次々とページをめくる手が止まらない作品でした。

 

 

もう少し西洋の歴史について知識が深くなったらもう一度読み返してみたいと思います。

 

ありがとうございました。