株式投資において多くの人が見落としがちな重要な事実があります。それは下落と回復の非対称性です。今回はこの観点から、株式投資の厳しい現実について考えてみましょう。
下落と回復の数学的非対称性
株価が100円の銘柄があるとします。この株が90%下落すると、株価は10円になります。ここで重要なのは、この株が元の価格に戻るためには、単純に90%上昇すればよいわけではないということです。
10円から100円に戻るためには、900%の上昇が必要です。つまり、下落率と回復に必要な上昇率は対称ではないのです。これは多くの投資家が直感的に理解できていない落とし穴です。
税金の影響
さらに状況を複雑にしているのが税金の存在です。仮に奇跡的に900%の上昇が実現し、10円だった株価が100円に回復したとしましょう。しかし、あなたがこの株を売却した場合、利益に対して20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税金が課されます。(年間収支がプラスの場合)
具体的な計算をしてみましょう:
- 売却価格:100円
- 購入価格:10円
- 利益:90円
- 税金(20.315%):約18.28円
- 税引後の手取り:約81.72円
つまり、900%の上昇を達成しても、税金を考慮すると手元に残るのは当初の100円ではなく、約81.72円なのです。元の投資額を回復するためには、さらに高いリターンが必要になります。
投資家心理への影響
このような数学的現実は、投資家の心理にも大きな影響を与えます。90%の下落を経験した後、900%の上昇を期待することは非常に困難です。多くの投資家は大きな損失を抱えた後、損切りを決断するか、あるいは回復を信じて保有し続けるかの苦しい選択を迫られます。
しかし、統計的に見ると、大幅に下落した銘柄が完全に回復する確率は決して高くありません。特に企業の基礎的な問題がある場合、回復の見込みはさらに低くなります。
リスク管理の重要性
これらの事実は、株式投資においてリスク管理がいかに重要かを示しています。大きな下落を防ぐための投資戦略(分散投資、ストップロスの設定など)は、後から取り戻すことの難しさを考えると、より一層重要です。
下落を許容できる範囲に抑え、長期的には市場平均を上回る安定したリターンを目指す戦略が、多くの投資家にとって賢明な選択かもしれません。
株式投資の世界では、「失わないこと」が「得ること」よりも時に重要になるのです。