「今テレビで見た記憶のやつすぐに送ってちょうだい!」
今日も長い1日が始まる。
朝イチの電話はいつものおばあちゃん。
今日は、あいにくの雨。
雨の日は道路が込みバスが遅れる。
いつもより早めに家を出た。
中山ひかるは健康食品会社に勤めて16年になる。
一応、管理職だが、この頃どうも空回りをしている。
陰で鬼と呼ばれ、最近自分でも鬼と思う。
中山が指導した新人が研修終了後に次々と辞めていく。
部長に指摘されて、初めてこれまでやってきた自分の指導に疑問を感じた。
根性がないのか?わたしの指導が悪いのか。
自問自答の数ヶ月。
考え方も最近は中山の時代とは変わってきているが、自分の指導に疑問を持つと今までしてきたことは何だったのかと一気に無駄に思えてきて認めたくない。
最初はパートで入社して長く続けるつもりもなかったが、だんだんと仕事の面白さを見つけ辞める理由もなかった。
とにかく、女優になったつもりでセリフのように電話を取る。
トーンを上げ、出したこともない声色で顔の見えない客と会話をして要望を聞く。
これを8時間週に5日。
過酷と言えば過酷なのかもしれない。
退職する新人が多く、毎週のように研修を繰り返す。
最近の気にかかる子は、何日か前に入社した
田中美保代。
何度指導しても、低い声で応対をする。
そんな声では逆にお客様に心配されるでしょ!
健康食品売ってるんだからとにかく明るく!
と何度も何度も鬼のように叫んだ。
頑固というか、根性あるというか、全く変わらない。
ここまで強く言うと泣き出す人も多い中、田中はハーイと返事をしてケロッとしている。
まぁそのうちこの子も辞めるだろう。
田中がデビューし中山の手を離れて数週間。
続いている。
まだまだスムーズにはいかないが、数字が取れている。
ん?なぜ?
音声聞いても相変わらず低い声。
でも、確実に成長して結果を出している。
なんか、この子の声って安心感があるわ。
低いけど落ち着いている。
何かモヤモヤが晴れて行く気がした。
いいと思い込んでいたものが正しいわけではないのだ。間違いでもないのだ。
わたしの指導することは声のトーンなどではないのだ。
わかっていたはずなのに、いつからそこばかりにこだわっていたのだろう?
明日からは、何か上手くいきそうな気がする。
そんな気がする。


