全編、モノクロで、
大自然や夜のサンチャゴの上空を飛び回る吸血鬼
美しい映像が魅せてくれる「伯爵」
伯爵と呼ばれた、
極悪非道の独裁者アウグスト・ピノチェト元チリ大統領は、
アウグスト・ピノチェト(1915~2006)
歴史上唯一の選挙で選ばれたチリの社会主義政権に対して、
アメリカや大資本家の後押しを受けて軍事クーデターを起こし、
大統領に就任(1974年)
後に国内外の人々の大量虐殺と不正な蓄財で訴追されながら、
罰を受けることもなく91歳で2006年死去した
(これは史実です)
しかし、彼はチリ南部の辺境の地にある邸宅で、
ひっそりと生きていた
彼は250年生きた吸血鬼だった
奇想天外なお話は、多くの実話を巧みに取り込みながら、
死のうと思っても死に切れないピノチェトとその妻ルシア、
そして5人の子供たちとの隠し財産をめぐるイザコザや、
彼の罪を暴こうとするカトリック教会との暗闘を描いていきます
映画は年配らしい女性のナレーションで進行していきます
そして終盤、
ナレーター実は元イギリス首相マーガレット・サッチャー自身が窮地に陥ったピノチェトを助けるため、
颯爽と空を飛んで姿を表します
マーガレット・サッチャー(1925~2013)
昔々、ある吸血鬼にレイプされ首を噛まれたサッチャーは、
ピノチェトの生みの母でした
南アのアパルトヘイトを容認し、ピノチェトを讃えたサッチャー
二人は新自由主義のもと、富裕層を優遇し、所得格差による貧困の増大を招いた
これも史実です
望んで伯爵に吸血鬼にしてもらった、
ピノチェト家の執事ヒョードル、妻のルシア、
ピノチェトの愛人に堕ちた悪魔祓いの修道女カルメン
彼らは結局殺されます
3人の吸血鬼の心臓を喰らって若返ったピノチェトとサッチャー
ピノチェトはチリの小学生に、サッチャーはその母になります
子供を小学校に送り出した母親サッチャーは最後にこう語ります
「言って欲しいことは男に任せて、して欲しいことは女に頼みなさい」
これはそのまんま実際のサッチャーの言葉です
体裁はブラック・コメディ映画ですが、
監督のパブロ・ララインは、明確に、
現代のチリに、
サッチャリズムや何万人もの虐殺を行った独裁者を容認する者たちがいる、と指摘します
油断すると、またあの時代が来る
また、その時、カトリック教会が国民を守れなかった、
それも忘れるな、とも言いたいようです
Netflixで偶然見つけた本作
あのピノチェトが吸血鬼?
何か面白そうって観始めましたが、
まさかの展開、思いがけない人物の登場、
なかなかに重い映画です
地球の反対側半世紀前の歴史の端っこの知識も必要そうですが、
今はWikipediaがそれなりに教えてくれます
出来れば劇場公開すればいいのに
そう思える映画でした