4月17日、ドラッグストア企業グループ「ウエルシアHD」の2017年度決算会見がありました。

 

売上高6952億6800万円(111.6%)、営業利益288億2600万円(119.7%)、経常利益309億2300万円(120.2%)と素晴らしい業績でした。

 

  
これら業績数字以上に驚き、また感慨深く感じた数字がありました。

 

それは、全1687店舗のうち、オストメイト対応トイレの設置が588店舗になっていることです。

 

 


  
中小企業の場合なら、トップ自らの発案で物事が推進されることが多く、大企業が何かに組織的に取り組む場合は、たった一人の社員の発案がきっかけとなって大きな動きへと発展していくことが多々ある。

 

その意見を拾い上げ、するか・しないかを決断するのはトップの役割ですが、ウエルシアがオストメイト対応トイレを普及させていくことになったきっかけは、ある一人の女性の存在なくして語ることはできません。
    
オストメイトとは、ストーマと呼ばれる人工肛門を装着した人のことを指します。

 

これは他人事ではなく、明日は我が身。人工肛門の装着は、誰にだって起こり得ることなのです。
 

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ある日、ウエルシアの池野会長は、オストメイト対応便座の設置について、外部から話を持ちかけられました。

 

その時は、

「別に今、早急に取り組むことではない案件だ」

と思ったそうです。

 

コスト的にも、簡単に判断できるものではありません。

 

1台設置するのに、約20万円かかります。

同社は1600店舗以上あるわけですから、どれだけの金額が必要か、容易に計算できるでしょう。

 


  
すると、ある女性社員が「池野会長、お話があります」と、会長席にやってきました。

ウエルシア本社には、役員室などはなく、池野会長をはじめ、副会長、社長、副社長、専務、常務の席は、社員たちと同じフロアにあります。

 

「人工肛門を付けた人が、トイレを気にすることなく、気軽に外出できるように、ぜひウエルシアでオストメイトに対応したトイレを設置していってほしい。地域の生活支援を志すウエルシアなら、何にも優先してすべきことです」

と、勇気を持って池野会長に直訴したのです。
  
その女性は、人工肛門を付けていなかったものの、末期のガンを患っていました。

 

隔週の金曜日、抗がん剤を投与しながら、自宅のある静岡県の三島駅から、御茶ノ水のウエルシア本社へ、新幹線で片道2時間かけて通い、8時間労働で普通に働いていたのです。

 

ただ、9時ー18時の終業時間だと、家に帰りつくのが20時になってしまいます。

通勤ラッシュも、病身にはつらい。

そこで、8時から17時と、1時間終業時間を繰り上げてもらい、毎朝5時過ぎに新幹線に乗る生活を、闘病の身でありながら、文句ひとつ、泣き言一つ言わず、送っていたのです。

 

※写真はイメージです

 

闘病仲間に、きっとオストメイトの方々がいたのでしょう。

日本国内では、人工肛門を付けている人は、20万人ほどいます。
  
「地域の生活支援を志すウエルシアなら、オストメイト対応のトイレにすべきです」

 

彼女の真剣な想いを聞いて、池野会長はウエルシア全店に設置していくことをすぐ決断します。

 

それが、昨年6月のことでした。

それからまだ1年も経っていないのに、その設置数は588店舗にもなっていたのです。

 

池野会長は、決断力もすごければ、その徹底力とスピードもすごい。

ウエルシアの強さの秘密の一つです。

  
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オストメイト対応トイレの設置を池野会長に直訴した彼女は、ガンと闘いながら、「あと5年は生きたい」と、前向きに仕事をしていたものの、昨年12月、入院をしてしまいました。

 

病室からきれいな富士山が見えると、写真を送ってきてくれました。

 

 

3月17日に自宅療養に切り替えたものの、残念なことに4月2日、急逝しました。
  
昨年6月、池野会長から私へ、依頼がありました。

 

「うちの社員の中に、末期がんでありながらも、使命感をもって仕事に打ち込んでいる女性がいる。

彼女のおかげで、オストメイト対応トイレの設置を決めた。

ぜひ、彼女のことを、インタビューしてやってくれないか。

いろんな記者を知っているけれど、君になら、彼女は話しにくいことでも何でも話すと思うんだ」

 

――こうして彼女とのご縁をいただき、交流が始まりました。

 

入院をされてからもメールなどで励まし、亡くなる4日前の3月29日まで私たちの交流は続きました。
 
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4月4日、彼女のお通夜に参列するため、静岡県の三島駅へ。

 

葬儀場の住所が「桜堤」とあるように、桜が咲き誇るところでした。

 

駅から葬儀場へ向かっている時、

「桜がキレイ」

とつぶやいた私に、タクシーの運転手さんが

「お時間があるなら、桜を見学していきますか?」

と提案してくれました。

 

通夜前で不謹慎かなと思いつつも、促されるままに車を走らせてもらい、哀しみの中にありながらも、桜の美しさを心の奥底で堪能させていただきました。
  


喪主であるご主人が通夜の最後、挨拶の中で、こうおっしゃった。

 

「故人は花が好きで、特に桜が好きでした。ここ桜堤の葬儀場に決めたのも、桜がきれいな場所だからです」

 

通夜前に桜を見せてくれたのは、タクシーの運転手さんだったのではなく、彼女だったんだなぁ。
  
彼女の通夜には、東京から池野会長も参列しておられました。

会場でお姿を見つけた時にはびっくりしました。

7000億円企業のトップが、一社員の葬儀にかけつけるなんて!
  
通夜が始まる前、池野会長が祭壇の前に進み出て、故人に向けて感謝状を読み上げました。

 

彼女の死があまりに悲しくて、その内容をよく覚えていないのですが、

 

「ウエルシアが推し進めているオストメイト対応トイレの設置は、588店舗にまで広がりました。

ウエルシアだけではなく、この動きは他業界にまで影響を与え始めています。

これは、貴殿の勇気ある行動によって生まれたものです」

 

といった言葉だけは、耳にはっきりと聞こえました。

 

立派な額縁に入った会社からの感謝状は、祭壇に飾られたのです。

  
新聞をはじめとするメディアで、ウエルシアHDの素晴らしい業績数字が多々報じられています。

話題になっています。

 

しかし、儲けの数字ばかりを報じるだけで、こうしたオストメイト対応トイレ設置などの社会貢献の取り組みは、どうしても陰に隠れてしまいます。
  
企業の華々しい業績数字や派手な取り組みを報じることも大切ですが、世に知られていない素晴らしい取り組みを発信することも、また私の仕事の使命です。

 

ウエルシアHDの決算会見に出席したことから、皆さんに、業績数字だけでは見えない同社の素晴らしさをお伝えしたいと思い、長文となりました。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
  
ウエルシアの影響を受けて、同業・他業界にも、オストメイト対応トイレの設置が少しずつですが進み始めています。

 

私もこの推進に尽力していきます。

 

ぜひ、皆さんの企業、店でも、オストメイト対応便座の設置の検討をお願いします。

 

お問い合わせをお待ちしています。