彼女は
今も
視聴覚室にいて、
テレビ画面を見ている。
彼女は
高3のときよりも
もっと まっすぐな心を持つ。
高3のときとは違って
もはや『可愛い』ではなく『美しい』と言われるようになった。
学校も卒業した。
ちなみに
まっすぐな心は
(まっすぐでありながらも)どのようにも形を変えられるくらいに
柔らかさを保ってある。
愛のこと
と
悲しみのこと
は
よく知らないけど。
高3のときよりも
自由のことをふかく知ったので、
もはや
思い浮かべるだけでその場所に
体ごと移動できるほどにまでなっているらしい。
それでも
今また
再び
視聴覚室に居て、
あの日とおなじ
生物の教育番組を
映すブラウン管を
見つめている。
鳥たちの生態。
あのシーンを
待っている。
あのタイミングを
待っている。
(パッ)
画面が切り替わる。
彼女は思い出す。
あの親鳥が
画面に映される。
(彼女は思う)
『このあとすぐ
あの卵のある巣に近づいていくはずだわ』
(彼女は動く)
(つまり卵が蹴落とされるまえに)
彼女は今、
テレビ画面のなか、
森にいる。
彼女は彼女の姿のまま、しなやかに
木を登っていく。
あっという間
木の枝のあたりまでたどり着く。
いつの間にか
彼女の姿は鳥に
なっている。
すこし先、
巣のところには
まさに
あの鳥が来て、
いよいよ
卵に近づいていくところ。
(その鳥は彼女よりも大きい鳥だ)
それでも彼女は
ひるまずに
くちばしをひらく、
そこからは
言葉が
(透明な声と共に)出た
「やめてよ!」
大きな鳥が
彼女に気づいて振り向く。
彼女は
はっきりとした声で言う
「かわいそう!
かわいそうだからやめて!」
その鋭い響きに
大きな鳥は
その場を飛び去った。
彼女は 今を 取り戻した。
彼女は自由を使って、
つまり
自分の声で森の空気を震わせることで、
目の前の卵を、
ただ単純に守った。
彼女は
もう
なんにも
間違っていない。
彼女は
なんにも間違っていない。