(桃一は手紙を書いている)
そんなわけで
小5くらいの
僕の家に黒くてちっちゃい子猫がやってきたんだけど
そんときにさ
実際それまでに猫を飼ってたこともあったんだけどもさ?
やっぱり男の子でしかも子供だったから、雑だったんだよね、僕。
かつて僕んちに居た猫は僕に(寝てるところを)こう、
びろ~ん と
むりくり持ち上げられてさ?
で抱きかかえようとするんだけども、
猫のほうも急に雑に持ち上げられて抱かれても落ち着かないわけで
身をよじって逃げるわけだけど、
そうすると
逃げられたほうの子供(僕)は悔しくて猫を追いかけたりしてね。
猫、大迷惑、というかんじ。
「そういうのをやめよう」
と思ったのね。
小学生の男子だからと許されていた雑なやり方を
やめよう
と思ったのさ。
このちっちゃくて黒い子猫には
(できるだけ)
そういうのはやめてやさしくしよう、
ってね。
それで
クロはうちで暮らし始めた。
結局、初日の失踪事件のあと、クロと遊びながら判明したのだけれど、
クロは縁側につづくガラス戸などから
ひょっこり外にでて
まわりをうかがったりする時期を経て、ガンガン外で遊びまくる猫になった。
さいわいなことに
家は坂のうえのほうに建っており、住んでいる人たちの車や郵便配達のバイクぐらいしか通らないという交通事情だったし、僕の家の前と横が空き地だったし、そのほかにも草がボーボーに生えた空き地がたくさんあって、つまり猫の暮らしやすそうな町ではあったのでした。
で、
当たり前といえば当たり前だけれど
僕とクロの記憶には
年代がほとんどない。
「そのとき自分が何年生で」
みたいな目印がないのだ。
僕がどれだけ学校でやりきれなかったり冴えなかったりしてても、
そこにはクロはいつも
いないのであるですよ。
クロはいつも家にいて
僕が学校でどんなふうなのかどれだけモテないのかを
いっつも知らずに
小5のときから
変わらずに
にゃいにゃい
とか言いながら
カツオブシ風味のキャットフードの匂いをときに漂わせながら
僕のほうにのこのこ歩いてきては僕でヒマつぶしをしたり
僕なんかおかまいなしで眠りつづけたりするばかりなのだった。
だから
僕とクロの記憶には年代がない。
溶けてしまっているような気さえする。
クロとの記憶は
他の出来事とは混ざらずに
クロと僕がいる場面ばかりをくっつけてそこでまるくなってねむっているのだろう。
ある年、
たぶん
秋か冬のある日
朝、変な音で
僕は目覚めた。
(みゅ~みゅ~)
という音。
聞き慣れない音である。
(みゅ~みゅ~)
あるいは
(ぴちゃぴちゃ)
という音もするのだった。
うむむ。
寝ぼけながら
すこし考える。
クロは僕の脇腹のあたりで
ごろりと寝ているようだな。
(みゅ~みゅ~)
やっぱりなにか音がしてるわ。
僕は体を半分起こして
布団をめくってまずはクロを確かめてみる。
わ~!
僕は目を覚ました。
クロは
僕の布団のうえで
子供を産んでいた。
三匹の赤ちゃん猫の体をクロはペロペロと舐めていた。
びっくりしましたですよ。
でも
僕は
ほんとうはあとで
ずいぶんうれしくなった。
猫って生き物は普通、人間に心を許したりしないし、
子供を産むときも
(年老いて死ぬときも)
人目につかないところで隠れてするものなのだ、と
なにかの本で読んだからだった。
クロはたぶん
猫らしくない猫で
僕は たぶん
クロに信頼されたのだ と思うと
それは
すご~く
誇らしいことだった。
たぶん
クロはそのとき
猫からほんのちょっとだけ
人間に近づいたと思う。
もちろん、
僕も
人間からほんのちょっとだけ
猫に近づいた。
ほんのちょっとだけ猫になったのでした。
(第23話おわり)
そんなわけで
小5くらいの
僕の家に黒くてちっちゃい子猫がやってきたんだけど
そんときにさ
実際それまでに猫を飼ってたこともあったんだけどもさ?
やっぱり男の子でしかも子供だったから、雑だったんだよね、僕。
かつて僕んちに居た猫は僕に(寝てるところを)こう、
びろ~ん と
むりくり持ち上げられてさ?
で抱きかかえようとするんだけども、
猫のほうも急に雑に持ち上げられて抱かれても落ち着かないわけで
身をよじって逃げるわけだけど、
そうすると
逃げられたほうの子供(僕)は悔しくて猫を追いかけたりしてね。
猫、大迷惑、というかんじ。
「そういうのをやめよう」
と思ったのね。
小学生の男子だからと許されていた雑なやり方を
やめよう
と思ったのさ。
このちっちゃくて黒い子猫には
(できるだけ)
そういうのはやめてやさしくしよう、
ってね。
それで
クロはうちで暮らし始めた。
結局、初日の失踪事件のあと、クロと遊びながら判明したのだけれど、
クロは縁側につづくガラス戸などから
ひょっこり外にでて
まわりをうかがったりする時期を経て、ガンガン外で遊びまくる猫になった。
さいわいなことに
家は坂のうえのほうに建っており、住んでいる人たちの車や郵便配達のバイクぐらいしか通らないという交通事情だったし、僕の家の前と横が空き地だったし、そのほかにも草がボーボーに生えた空き地がたくさんあって、つまり猫の暮らしやすそうな町ではあったのでした。
で、
当たり前といえば当たり前だけれど
僕とクロの記憶には
年代がほとんどない。
「そのとき自分が何年生で」
みたいな目印がないのだ。
僕がどれだけ学校でやりきれなかったり冴えなかったりしてても、
そこにはクロはいつも
いないのであるですよ。
クロはいつも家にいて
僕が学校でどんなふうなのかどれだけモテないのかを
いっつも知らずに
小5のときから
変わらずに
にゃいにゃい
とか言いながら
カツオブシ風味のキャットフードの匂いをときに漂わせながら
僕のほうにのこのこ歩いてきては僕でヒマつぶしをしたり
僕なんかおかまいなしで眠りつづけたりするばかりなのだった。
だから
僕とクロの記憶には年代がない。
溶けてしまっているような気さえする。
クロとの記憶は
他の出来事とは混ざらずに
クロと僕がいる場面ばかりをくっつけてそこでまるくなってねむっているのだろう。
ある年、
たぶん
秋か冬のある日
朝、変な音で
僕は目覚めた。
(みゅ~みゅ~)
という音。
聞き慣れない音である。
(みゅ~みゅ~)
あるいは
(ぴちゃぴちゃ)
という音もするのだった。
うむむ。
寝ぼけながら
すこし考える。
クロは僕の脇腹のあたりで
ごろりと寝ているようだな。
(みゅ~みゅ~)
やっぱりなにか音がしてるわ。
僕は体を半分起こして
布団をめくってまずはクロを確かめてみる。
わ~!
僕は目を覚ました。
クロは
僕の布団のうえで
子供を産んでいた。
三匹の赤ちゃん猫の体をクロはペロペロと舐めていた。
びっくりしましたですよ。
でも
僕は
ほんとうはあとで
ずいぶんうれしくなった。
猫って生き物は普通、人間に心を許したりしないし、
子供を産むときも
(年老いて死ぬときも)
人目につかないところで隠れてするものなのだ、と
なにかの本で読んだからだった。
クロはたぶん
猫らしくない猫で
僕は たぶん
クロに信頼されたのだ と思うと
それは
すご~く
誇らしいことだった。
たぶん
クロはそのとき
猫からほんのちょっとだけ
人間に近づいたと思う。
もちろん、
僕も
人間からほんのちょっとだけ
猫に近づいた。
ほんのちょっとだけ猫になったのでした。
(第23話おわり)