今年の世界フィギュア公式練習で浜田コーチ(左)の指導を受ける紀平(撮影・小海途 良幹)
フィギュア宮原、紀平を教える浜田コーチが大切にする「人と人をつなぐ言葉」
スポニチアネックス / 6/15(土)
https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2019/06/15/kiji/20190615s00079000112000c.html
いい言葉は人を生き生きさせる。フィギュアスケート・浜田美栄コーチ(59)の「人と人をつなぐ言葉」というフレーズが心に響いた。「誰かのためになる言葉」と置き換えられるだろう。耳にすれば、きっとうれしい気持ちになる。
だが、現実は違う。「あの人はこうだよね」。第三者の言葉が、人間関係を狂わせることが多々ある。
悪口や陰口で足を引っ張るのではなく、人と人を結び付ける架け橋になってほしい。そう願い、浜田コーチは「人と人をつなぐ言葉を大切に」と教え子に伝えている。
その言葉を意識し始めたのは、20年近く前のことだそうだ。当時、中学生の男子選手に手を焼いていた。何を教えてもふてくされたような態度で、心を開いてくれない。
「私には無理かも」
諦めかけた頃に、ある大会があった。指導する選手が次々リンクへ。昼食を取る暇さえなかった。教え子の1人が、気を利かせて声をかけてくれた。「コンビニでおにぎりを買ってきましょうか」。甘えることにした。袋を開けたら、栄養ドリンクも入っていた。
「先生が大変だからって、あいつが買おうって言ったんですよ」
あいつとは、指導に限界を感じていた選手のこと。買い物に行った生徒は、師弟関係が良好でないことを知っていたのだろう。友人の素顔を伝えるこの一言が「人と人をつなぐ言葉」になった。
反抗的な態度が本心ではないと分かり、接し方が変わった。競技をやめかねなかったその生徒は温かく見守られたことで、滑り続けた。現在はスケート関係の仕事に就いている。「あの言葉が私と生徒をつないでくれたのよ」。優しい一面を教えてもらわなければ、今でも集まる仲にはならなかったはずだ。
平昌五輪4位の宮原知子や、昨季のGPファイナルを制した紀平梨花の指導者として知られるが、コーチ人生は波瀾万丈だ。これまで2度、練習拠点のリンクが閉鎖する憂き目に遭っている。その都度、各所に足を運んで人間関係を築き、難局を切り抜けた。
支えたくれた方への感謝を何度も口にする浜田コーチの気持ちはよく分かる。その一方で私はこう思う。「人と人をつなぐ言葉」を大切にする人だからこそ、温かいサポートに巡り会うことができたのではないかと。あの人のためになるように―。相手を思っての言葉はきっと、自分の人生を豊かにする。(記者コラム・倉世古 洋平)