別件の調べものをしていて見つけた。 うわさに聞く『六文銭;三途の川の渡し賃』の一つの典型的な出土例。 そのメモ

 

 

1. 元総社蒼海遺跡群@前橋市の墓壙

 

 

1-1. D-15号墓壙;

  • 坑底に頭位を北、顔を西に向けて屈葬。

  • 後頭部付近から 青磁皿の 1/2 程度の破片が1点出土。

  • 腹部に抱かれる位置から重なった銭が6枚。

  • 青磁皿の特徴から 15 世紀後半と推定される。

 

 

 

1-2. D-4号墓壙;

  • 坑底に頭位を北、顔を西に向けて屈葬。
  • 副葬品と思われる鉄製刀子が肩付近から、重なった銭6枚と被熱した石(温石?)1点が腰付近から、遺体の上面西寄りにカワラケ 5点(大3・小2)が出土。
  • カワラケの形態から、15 世紀後半と推定される。

 

 

 

 

15世紀後半とのこと。関東一円は戦国時代の幕開け『享徳の乱』(1454 ~ 1483)の真っ只中。

 

 

 

2.時代背景;蒼海城

古代末~中世; 

  • 元総社地区に蒼海城が築城される。その詳細な時期や成立過程については不明な部分が多いが、 『上野伝説雑記拾遺』「総社記」には長元元年(1028)に城館の存在を示す記述があり、実際の発掘調査成果でもこれを肯定しうるような古代末の遺構・遺物の集中が蒼海城中枢部で確認されている。しかしながら大規模な堀を巡らし高い土塁を伴うようなイメージのものではなく、遺跡としての実体は「区画溝に囲まれた何か」であり、居宅のようなものと推察される。
  • 『吾妻鏡』には、治承四年(1180)に元総社地区を支配していた源氏方の千葉常胤の居宅を平氏方の足利俊綱が焼き払ったとの記述があり、まさにその千葉氏の居宅が蒼海城初期の姿であったと思われる。  
  • その後、建武四年(1337)に山内上杉憲顕が上野国守護となり、上杉氏の家宰である長尾氏が 14 世紀中頃までに入部したと考えられ、長尾氏は白井城の白井長尾氏と蒼海城の総社長尾氏とに分立し、守護代として栄えていく。
  • 享徳三年(1454)に始まる享徳の乱は東国全域を巻き込んだ戦乱となり、上野国でも長尾景春の乱(文明九年・1477)や長享の乱(長享元年・1487)が相次いで勃発する。これらの戦乱を契機に蒼海城は防御機能を強化し、城郭化したと考えられている。

 

 

 

3. 六文銭

  • 主に近世以降の葬送儀礼において、死者に付す六点(六文)の銭貨を示す。「六道銭」、「六文銭」、「銭六文」などと呼称され、考古学の研究では 「六道銭」という用語を使用することが多い。 
  • 死者に付す場合、「三途の川の渡し賃」、「六地蔵への賽銭(さいせん)」、「死出の旅路の路銀」などと理解されていることが多い。
  • 人は死後、死出の山→三途の川→六道の辻を経て、極楽ないしは地獄に至るという他界観がある。
 
  • 六文銭といえば、銭形を3行2列に並べた信州真田家の紋所(六文銭紋または六連銭紋)が有名。これも、銭六文を死者に持たせ、六地蔵への賽銭にするという地蔵信仰に基づき、不惜身命(ふしゃくしんみょう:仏道のために身も命も惜しまないこと)の 武士の意気を示したものとされている(日本史広辞典編 集委員会 1997)。

  • 鎌倉時代以前にも墓に銭貨が副葬されることはあったが、銭貨6枚セットで墓に供献されるのは、およそ 15 世紀後半頃(室町時代)からと考え られている。寛永通寶は江戸時代になってから日本で鋳造された銭貨なので、室町時代には存在していない。その頃は、主に中国銭(渡来銭)が流通しており、それを副葬していた。
 
 

3-1. D-15号土坑から出土の六文銭;

  1. 永楽通宝 / 中国明代(1411年)より鋳造され始めた銅製銭貨。日本では室町時代に日明貿易や倭寇によって大量に輸入され、江戸時代初頭まで流通。永楽銭永銭などと呼ばれた)
  2. 洪武通宝 / 中国明朝で発行された銅銭。明銭は日本で、皇朝十二銭以降の日本独自のコインである寛永通宝が発行される江戸時代初頭まで、古い宋銭などとともに流通していた。
  3. 熈寧元宝 (きねいげんぽう)/ 1068年発行、北宋時代の銭貨。
  4. 不明2枚

 

   

3-2. D-4号土坑から出土の六文銭;

  1. 洪武通宝 / 同上
  2. 開元通宝 2枚 / 唐代において621年に初鋳され、唐代のみならず五代十国時代まで約300年にわたって流通した貨幣。宋代(960年 - 1279年)になっても、開元通寳は宋銭とともに中国で現役で流通しており、日本でも渡来銭として宋銭などとともに使われていた。
  3. 元祐通宝 / 中国の宋代(960〜1279)に鋳造された銭貨。 銅銭と鉄銭がある。 北宋(960〜1127)の太祖が宋元通宝を鋳造し、太宗の時代に太平通宝、淳化通宝、至道元宝を発行してのち、おおむね改元ごとに、その年号を記した銭が鋳造された。
  4. 治平元宝 / 中国の宋代(960〜1279)に鋳造された銭貨。
  5. 景徳元宝 / 中国の宋代(960〜1279)に鋳造された銭貨。