1. ハインリッヒ・イベント : 

  • 最終氷期に北大西洋へ大量の氷山が流れ出したことで生じた、急激で大規模な寒冷イベント

 

 

 

2.  Dr. Manabe の Ocean-Atmosphere Coupled Model

  • このハインリッヒ・イベントにより生じた地球規模の寒冷化現象をシミュレーションモデルで再現したのが真鍋叔郎博士。米プリンストン大学上席研究員。大気中の二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化に影響することを実証した業績が評価され、2021年ノーベル物理学賞を受賞した気候学者。

 

 

 

3. 北大西洋水まき実験 on 大気海洋結合モデル; Manabe et al 2000, Study of abrupt climate change by a coupled ocean-atmosphere model, Quaternary Science Reviews 19 (2000)

 

 

3-1. モデル設定

  • 北大西洋のAブロック(IRD/Ice Rafted Debrisの分布海域)に0.1Svの体積流量で淡水を500年間注ぎ込む。(比較イメージとして;黒潮=40Sv、フロリダ海流(メキシコ湾流の元)=30Sv, アマゾン河=0.2Sv)
  • 注入する淡水の温度は、北大西洋の海面温度と同じ水温とする。
  • 500年後に淡水注入を停止し、1250年まで経過をシミュレートする。
  • 比較実験として同様の条件でブロックB(カリブ海=メキシコ湾流の出発地域)にも淡水を注入。

  • Sv(スベルドラップ);体積流量の単位。海洋学において海流の流量の計量に用いられる。1Sv=100万m3/s = 水深1000m、幅1000mの海域を流速1m/sで通過する流量。

 

 

3-2. 北大西洋海水循環システム

  • メキシコ湾流が断面を横切る北緯50度付近では、① 淡水注入開始前のInitialな状況の体積流量は18Svと高い流量を示している。しかし、② 淡水注入後401年から500年では、僅か4Svと減じメキシコ湾流はほぼ停止の状態となっている。③ 注入停止後400年~500年でメキシコ湾流は18Svとなり①の状態に復元した。

 

 

 

  • 淡水注入後401~500年には、メキシコ湾流は北進していない。

 

 

 

3-3. 海面水温の変化

  • 淡水注入から401~500年後の北大西洋の海面水温はグリーンランド南方海域で最大5℃の低下を示す結果となった。

 

 

 

3-4. 北大西洋水まき実験による気温の変化(大気海洋結合モデル)

  • 北大西洋の水まき実験ブロックAの上空で最大7℃の気温低下となった。強い寒冷化は北極海、ノルウェー海やグリーンランドのみならずスカンジナビア半島、西ヨーロッパで観察される。その他の北半球の高緯度地域でもマイナーな寒冷化がシミュレートされている。
  • 最寒冷地であるアイスランドでは、淡水注入500年まで寒冷化が進行するが、その後の停止後僅か250年で注入開始前に回復する。
  • マイナスの異常は、南極環海、南極大陸でも認められる。
  • 極僅かなプラスの異常がその他の地域で観察される。

 

 

 

4. まとめ

  • 北大西洋のIRDが分布する海域に淡水を注入するとメキシコ湾流の北進は徐々に低下し、500年後にはほぼ停止した。注入を停止すると僅か250年でメキシコ湾流は注入以前の状態に回復した。(最極寒期から急激な気温上昇のパターンを意味しているのか)
  • 海面水温の挙動も体積流量のそれと呼応している(500年まで水温低下、その後僅か250年で回復)
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補足; ブロックB(カリブ海域≒メキシコ湾量の原点)への水まき実験

  • 500年の淡水注入とAブロックと同じ条件で実施するも、注入継続中にもかかわらず300年後にメキシコ湾流は注入開始前に回復してしまった。

 

 

  • 401~500年後の海面水温(↓図上)の変化は、僅か0.5~1℃。
  • 塩分濃度変化も海面水温同様に微々たるもの。

 

 

ブロックBへの水まきでは、汎地球的な寒冷化現象は再現され得なかった。