すごいもんを観たぞ…


舞台から湧き上がるエネルギーがすさまじかったです。
それは望海さんはじめ雪組子さんの熱演もさることながら、脚本がその熱量をしっかりと結末まで導き、結果うねりをあげてフィナーレまで収束したのが大きいと思う。
壬生とかワンスとかは脚本の粗や物足りなさを役者が埋めてたけど、FFFはしっかり両者が噛み合ってた。相乗効果になってた。

テーマがあるお芝居は観ていて楽しい。
そういう意味ではショーも最高だった。
最高×最高の組み合わせとか幸せすぎてなんかもう……ただただ嬉しい。



以下ネタバレ






物語の構造は三つから成る。

一、ベートーベンが紆余曲折を経て謎の女を抱きしめるまでのストーリー

二、ナポレオン、ゲーテを主軸としたフランス革命以降のヨーロッパ社会の変遷

三、一と二を見つめ、統合する神様の視点


個人的には三の神様の視点が面白かった。
ベートーベンやナポレオンの壮絶な人生をただ消費するのではなく、そこにあなたは何を感じるのか、何を考えるのかと観客に投げかけるポジション。
彼ら単体のエピソードはないけれど、与えられた役割はとても重いなと思います。



ストーリー自体は基本的に一と二が絡み合って進んでいく。

フランス革命によって芽吹いた自由と平等の精神をヨーロッパ各地に広げていくナポレオンとゲーテ。
ベートーベン(以下ルイ)は彼らの様に音楽で民衆へ自由を訴えて、社会を変えてゆこうと志を持つ。

……が、恋人には身分の差を理由に捨てられ、耳は聞こえなくなり、尊敬していたナポレオンも結局は権力目当てで皇帝となってしまって失望、と数々の不幸が降りかかる。
それでも俺にはまだゲーテがいる!と頑張っていたのに、当のゲーテにももうちょっと現実見なよと忠告されて孤立。

その後、ナポレオンは失脚。
フランスは再び貴族社会へと逆戻りする。

ルイはルイで耳が聞こえないことを必死に隠していたのに大衆に知られてしまい、そのせいで新しい曲を発表するも大失敗。
失意の中、故郷に帰ればひどい家庭環境から救ってくれた初恋の女性(=親友の妻)も亡くなっていた。

やることなすこと空回り、失敗し、翻弄されるルイ。
けれども夢の中でナポレオンの真意=格差は生まれるものだけど、全員がそこそこには生きられる様に世界を変えたかったという野望を知って再び立ち上がり、交響曲希望を書き上げる。


あらすじ自体はこんな感じで、割と王道な作り。
面白いのは全編を通して登場するルイにしか見えない謎の女の存在で、その正体が悪魔なのか、天使なのか、はたまたルイの妄想なのか、と最後まで観客に推理させるミステリー要素になっている。

ネタバレしてしまうと、謎の女の正体は人の不幸そのもの。
誰もの隣にあり、人を苦しませ、時に死をも与える忌むべきもの。

ルイも一度は彼女を拒絶し、遠ざけた。
けれども最終的には彼女のことを運命と呼び、受け入れ、共に歩んでいくと抱きしめる。

不幸が、運命があるからこそ、希望が生まれるというラスト。



決して美しい愛の物語ではなく、むしろ生きることの泥臭さやままならなさをこれでもかと打ち出して来るのに、最後は希望で終わるのが人間讃歌っぽくて、私は好きです。

個別感想はまたおいおい。