主役陣営であるイルラーゴの敵役、ボルツァーノ。
その領主が永久輝さん演じるジュリオで、影の支配者が久城さん演じるグリエルモ伯爵。

ヴィットリオとファルコ、そしてジュリオと伯爵。
作中に起こるもろもろの出来事は全てこの4人を中心に回っている。


その内、ヴィットリオ、ファルコ、伯爵はおんなじ世界の人たちだ。
決断力と実行力に富み、智謀策謀をめぐらせる支配者。

ジュリオはただ領主の息子に生まれただけ。
のしかかる責任の重さから逃げない程度には真面目だけど三人の様に腹黒く立ち回る知恵はなく、かといって愛や優しさを貫き通せる強さもない。

冒頭、妹であるクラリーチェの為に、イルラーゴとボルツァーノの和平を実現すると言っておきながら、伯爵に良い様にされて平和を思いっきり乱してるし。
策略の一環で愛するビアンカをヴィットリオへ売るし。
最終的には伯爵に殺されかける訳だけど、それすら敵であるヴィットリオに助けてもらって一件落着という有様。

作中の出来事を挙げていくとかっこいいポイントがない。
ほんっっっとにごくごく平凡な人。


けれども実際に観るジュリオからは、強者にへつらうような矮小さや小狡さみたいな印象を受けなかった。

演じる永久輝さんが元々持つ存在感の大きさや衣装の着こなし力という、見た目の恩恵はもちろんある。(……これがなきゃマジで悲惨だったろう)
眉を寄せて垂れさせる表情も優柔不断な情けない奴というより苦悩している美青年ぽくて無条件に素敵だと思ってしまうのはもう仕方がないよね。
だって永久輝さんだもん。

それにプラスして、彼は自身の弱さを自覚し、受け入れることができる器の大きさを持っていると感じたのも大きい。

愚かだから伯爵の操り人形なのではない。
己の愚かさを知るから、伯爵の操り人形に甘んじている。

だからこそ、ジュリオは伯爵亡き後、ヴィットリオに全てをたくした。
自身の能力を客観的に見て、自分では足りないことをありのまま受け入れる。
その上で、個人的な虚栄や復讐のためにではなく、民の為にも最善と思われる判断をした。


環境に恵まれれば、彼は平凡だけど良い君主になったと思う。
だからこそヴィットリオもジュリオを許し、彼を配下に加える形でボルツァーノの統治を任せたんだと思う。


なんだかんだ、作中で一番幸せな最後を迎えた人なんじゃないかな。
ヴィットリオという強いリーダーの元、穏やかに内政を行い、穏やかに生きる。

これからも激動の中を突き進むだろうヴィットリオとは正反対。
妹夫婦みたいな、互いの価値観を衝突させながら認め合うはげしさやドラマはないかもしれないけど、ビアンカとも仲睦まじく寄り添えるだろうしね。



後は、やっぱり伯爵演じる久城さんの存在感は外せない。
慇懃無礼を絵に描いたいやらしさがもう絶品。
主人を敬ってみせるけど、実は見下してるのが直感的に分かる。

表情、立ち居振る舞いはもちろんだけど、特に声の操り方が最高だった。
ちょっと鼻にかかる感じというか、高慢さが姿を見なくても耳からの情報だけで感じられる。

何気に策略家としてはヴィットリオより一歩二歩、上回っているよね。
ヴィットリオが助かったのはファルコ、クラリーチェ、ロドミアといった周囲の人々のおかげ。

伯爵に足りなかった点は多分ない。
それ以上に、ヴィットリオの人を惹きつける魅力が強かった、って感じ。