とりあえず初日付近に1回観ておきたい、とスケジュールを無理くり開けて行ってきた。

壬生義士伝に関しては中学生くらいの時に1回読んだことがあって、今回の上演が決まってから3回ほど読み直した。

新しい時代という、一個人では抗いようのない波が襲ってきた時に人はどうするのか。家族とは。侍とは。貧するとはどういうことか。

今思えば中学生の私には難しかったのかもしんないけど、素直に感動したのは覚えてる。
あの頃は今みたいに色んなことをこねくり回して考える様な読み方はしてなかったな 笑

ただ、そうやって宝塚を知る前から知っていたお話を宝塚で、それも雪組さんで上演するなんてことが今までなかったから(生で見れるという意味で)、幕が開くまで色々と想像が巡らせて楽しかった。
それを形に残したくてTwitterまで始めたくらい。

実際に観た感想としては、一部どうしようもない脚本上の不快な部分があってため息ついたし、決して傑作とは思わないけど、望海さんはじめ役者さんの演技が素晴らしく、ここからの深化を楽しみに通える公演、って感じ。




以下、ネタバレ注意。









まずは脚本について。


前半は良かったと思う。

ただ、後半のたたみ方がちょっとなぁ、と感じた。


なんというか、軸かブレた印象。

なんせ長い原作だから仕方ないけど……。

新選組を主軸に置くのか、次郎右衛門との友情を描くのか。

どっちも取ろうとして結果的にどっちも中途半端になった、て感じ。



まず新選組パート。


こっちの方を作者は主に書きたかったんだろうな。

主軸を担う斎藤一(朝美さん)と貫一郎の出会いからどういう過程で、どんな風に関わり、その絆を変化させて行ったのかが比較的丁寧に描かれている。


斎藤だけではなく、貫一郎が新選組の中でどう扱われ、存在し、親しまれてきたのか。

言葉ではなく場面としてエピソードが積み重ねられてるから

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大政奉還がなり、晴れて朝敵となった新選組。

戦況の不利を見て、一時撤退を決める土方ら。

これに対し吉村は、これは義の戦いだからと止める周囲の言葉を聞かずに渦中へ突っ込んで行く。



っていう、駆け足な新選組パートの幕引きも、まあ何とかなった。

頭の中は疑問符でいっぱいだったけど、役者さんに押し切られた感じ?


だってさ、それまでひたすら家族の為に金を稼ぎ、俺は生きると高らかに歌い上げた貫一郎がいきなり“義!”とか言い出して、死ぬのを分かっていて突撃すんだもん。

原作を読んでいてもちょっと貫一郎が何を考えているのか、劇中では理解しがたい。


これで終われたのは間違いなく望海さん、朝美さんを中心とした役者さんの力技だよ。



それまで貫一郎を生理的に無理ってレベルで毛嫌いしていた斎藤が、彼の死を目前になりふりを捨てて生きろと怒る。


また、ゆっくりと気の抜けるような喋り方だった貫一郎が、覚悟を決めるとガラッと目つきから変わってハリのある声で名乗りを上げる。


この二つの変化が脚本の穴を埋めた上でさらに山場にした、っていう印象。


特に望海さんの変化には見事にやられた。

頭の中のはてなを吹っ飛ばされ、次の場面へ胸ぐらを掴まれながらぐいっと移行させられた感じ。

こういう体験は生で味わうからこそだね。



この斎藤と貫一郎のやり取りはこれからの変化が楽しみな場面の一つ。

特に斎藤役の朝美さんは役の熱さもあって勢いで押し切る! っていう感じも受けたので、これに緩急がついたらどうなるのかを見てみたい。


……というか、今回の朝美さんは凄すぎる。

斎藤という役が良いにしても、輝き方、存在感の強さがこれでもかと前面に出てて、強烈に印象に残る。

望海さんは別格として、今回の観劇における個人的MVPです。




話を脚本に戻して……。


 

新選組パートと比べて、南部藩パートはあまりに展開が駆け足すぎる。


あれもこれも入れたいのは原作を読んだ身としてもひじょーーーによく分かるけど、いかんせん尺が足りてない。



ここで主軸を担うのはしづ(真彩ちゃん)ではなく、次郎右衛門(彩風さん)。

しづは貫一郎の生きる理由、バックボーンであって、物語を動かす側ではないと思うのよね。

弓を引くのは次郎右衛門。


彼はぼろぼろになって南部藩に帰りたいと訴える貫一郎を突っぱねて、切腹を命じる。

己に立場があるばかりに、竹馬の友へ死を言い渡さねばならない。


この時代故の不条理さ、体面を何より重んじる侍の、愚かしくも思える哀しさこそ、この作品の肝だろう。


感動したし、泣いたさ。そりゃそうよ。


でも、不満はある。


いやだってさ……新選組パートと比べてエピソードが薄すぎるよ!!



貫一郎と次郎右衛門の友情って、全部台詞だけじゃん。

次郎右衛門の母の面倒を貫一郎が見たとか。

俺はお前がいないと心細いと言ったりとか。


いや、それだけじゃ実感として分かりにくいよ。

どこかで幼少期、一緒にあそんだ場面を入れるとか。

次郎右衛門の立場が変わって対等な関係じゃなくなった瞬間とか。


ちょっとでもそういうのが描写されてたら全然印象も違ったと思うよ!


変に不快なお笑い場面いらないから! その尺を南部藩に割け!!



……とは言え、脚本として既に出来上がってるもんを改変すんのはもう無理だろう。


となると、新選組パートと同じく、役者さんがこの穴を埋めてくれるのを期待するしかない!



そういう意味では、朝美さんに比べると彩風さんの方がはるかに負担が大きいと思う。

エピソードの少なさに加えて、望海さんからそれを助けることが難しいのも大きい。



役の性質上、貫一郎は次郎右衛門より身分が低く、彼へ頭を下げなければならない。


望海さんは「大野様」と彩風さんへ意図的に距離を置き、彩風さんは「俺たち友達だろ」とその分を詰める構図。


望海さんから親しみを醸し出すのには限界がある。

つまりここを埋めるのはほぼ彩風さん一人ってこと。


この難しさを分かった上であえて言うと、今日の時点での彩風さんはまだこれからの様な気がした。

なので余計に、次の観劇日の楽しみが湧く。



キャリエールで観た彩風さんを思い起こすと、期待するなって言うのが無理な話。


後半の脚本のぐだつきを一身に背負う彩風さんの変化を追いかけたいな。