拙宅の近くに高校・大学の同級生が居ます。歳を経て地元に帰ってきたようです。そんな彼が先日、新聞の切り抜きとCDを渡して呉れました。以前にも高校の同級生が新聞記事や雑誌の記事に載ると「皆んな元気で頑張ってるね」と持ってきて呉れます。

彼の手渡して呉れたCDは森田童子のアルバムです。そして中には「高橋和巳が歌詞に入ってる曲がある。柴田翔じゃないよ」とありました。

森田童子・高橋和巳・柴田翔、脈絡が無いようでいても、私の心は少し反応しました。

森田童子(もりた どうじ)は私生活やプロフィールを明らかにせずに、1975年23歳でレコードデビュー。とても可愛い声をした女性シンガーで、アングラ系です。「ぼくたちの失敗」という曲は、1993年にTBS系で放映された真田広之氏主演の「高校教師」の主題歌としてヒットしました。記憶のある方も多いでしょう。ですが、この曲は1976年に発売されています。

高橋和巳は作家。1960年代から70年代初頭に著書が多く、70年代半ばには全集が出ています。柴田翔も作家。1960年代半ばから70年代半ばに多くの名作を書いています。ほぼ同世代の二人の作家は、70年代に多感な時期を過ごした本好きの人間に影響を与えた人たちです。「憂鬱なる党派」「堕落」、「されどわれらが日々」「贈る言葉」「鳥の影」。

私は1956年生まれ。もはや戦後ではないと国が宣言した年に生まれています。勿論、成長する過程で波はあるものの、東京オリンピック・新幹線・万博と高度成長の中で育ちました。オイルショックを経て、経済が落ち込んだ時代に高校・大学生活を過ごしたものの、正に「もはや戦後ではない」時代です。私より7~8年早く生まれた先輩は学生運動の時代を生きています。活動を正当化する気はありませんが、若い人が学生が真剣に悩み行動した時代でしょう。私より10年、それ以上前に生を受けた方々は、勿論、親の世代を含めて「戦争」の苦しみを体感した人たちです。そして国を世界を時代を「より良くしていこう」と生きた人たちです。

このような先輩世代は、辛苦を知り、生き残ろうとし、復興や経済・文化の発展に寄与してきました。鳥の視線で見てみれば、平坦で安穏な時代を生きた私たちの世代は、何を成し遂げたのでしょうか。個人的に成功した人は居ます。しかし、心の片隅に唯々「新しいものを次々と受け入れてきた」私たちの世代には「遅れてきた」という感覚があります。

森田童子も「少しだけ遅れた世代」を感じていたのかもしれません。美しい歌声の中の歌詞は、自分の直ぐ近く・足元を見詰めながら、時間の流れに置いていかれそうな悲しいせつない気持ちを、ゆっくりと歌っています。

                         (雀)