デイサービス「いこい」
車椅子に座っている女性の名前はツル。大正6年生まれの98歳。
このデイサービスに通う中では一番の最年長です。
ツルは両腕から指にかけてはゆっくりと自分で動かすことができますが、両足には力が入らず立つことができません。
移動するには車椅子を押してもらわなければなりませn。
尿便意も分からなくなっており、紙オムツの中に失禁している状態です。
清潔を保つために数時間おきにオムツの中を替える必要があります。
ツルの後ろを通ったとき、介護主任の須佐野真は便臭を感じました。
臭いの元がツルであることを把握した真は、小さく声をかけると車椅子を押して排泄介助用の部屋にいきました。
「ツルさんごめんよ~。ちょっとおしもを替えておくからね」
そう声をかけるとツルを介助してベッドの上に寝かせました。
ツルは足が立たず、紙オムツをつけているために、トイレではなくベッドに横になったまま排泄の介助を受けます。
「ズボン下げるからね~」
ツルの返事はありませんが、真は動作の一つ一つに声をかけて行います。
ツルは高齢になったことと、認知症の進行に伴い、会話をすることが難しくなっています。
簡単な質問になら、調子が良ければ「うん」と返事がある程度です。
真が紙オムツのテープを開くと、柔らかな便が広範囲に広がっていました。
「ツルさんごめんよ~、ちょっとお湯かけてきれいにするね」
そう言ってツルの身体を横に向けると、洗浄用のペットボトルに入れた湯をかけて便汚れを除いていきます。
柔らかな便は陰部にまで流れるので、陰部まできちんと洗浄しないと感染症を起こしてしまう可能性があります。
真はビニール手袋をはめた手でツルの陰部から肛門周囲までを丁寧に優しく汚れを落としていきました。
「これくらいで大丈夫か」
便汚れが落ちたあと、真は新しい紙オムツを当てます。
そしてオムツの位置を調整するためにツルの身体を上に向けた時です。
ブウッ、という音と共に柔らかな便がまた流れ出てきました。
慌ててオムツを受け皿にして、周囲が汚れないようにする真。
「ごめんねぇ~」
普段、言葉を発さないツルがそう言いました。
自分の置かれている状況が理解でき、人前で便が出たことへの羞恥もあったのでしょう。
真はそんなツルの心情を察します。
「大丈夫、気にしなくていいから」
そう言うと真は再度便を拭き取り、清潔にした後で紙オムツをつけ、ズボンを上げました。
汚物処理室で先ほどの汚れ物を片付けながら真は思います。
誰にも見られたくない姿を晒してしまうことが介護を受けるということ。
そのときの相手の気持ちを察し、声をかえることができるようになってこそ本物の介護士であると。
いこい日和 第2話 了
