先の日曜日…


京都は一乗寺に住む我が長男…彼のアパートの部屋を、妻や娘とともに訪れたのだった。


もちろん、いつものように掃除をするため…である。

今回は実に5ヶ月ぶりの訪問となった…

いやぁ…汚かった…想像してはいたけれど…

いわゆる「汚部屋」、というものに該当するのかもしれない。

そう…分かってはいるのだ。

もうこの部屋に彼が住み始めて、既に5年近い歳月が経過しているのだから。

その経験に基づいて言うならば…

掃除すべきインターバルのリミットは、いいところ3ヶ月だろう…

このリミットを超えてしまうと、部屋がエラいことになってしまうのだ。

具体的に何がエラいことなのかと言うと…

彼の体毛と部屋のホコリが絡み合い、マリモのように球型のフワフワした塊となった物質が…

部屋のあちらこちらに、数え切れないほど散在している状況…

ではここで敢えて、失笑されるのを覚悟で言おう。

彼の部屋は…

マリモが多数生息する阿寒湖のように、相当アカン状況になっているのだった。

そんな中…とりあえず部屋に入った私は…

このマリモたちを掃除機でジャンジャンと吸引し、ある程度それらを吸い尽くしたところで…

そこから改めて部屋の各所を、いつも通りに掃除し始めたのである。

そう…

実は本来ならば…

私の経験則に基づき、3ヶ月のサイクルで掃除をすべく…昨年12月末に彼の部屋を訪れる予定だったのだが…

運悪くそのタイミングで、可愛い我が娘がインフルエンザに罹患してしまい…その時は結局行けず仕舞い

しかもその年末のチャンスを逃してしまった結果、年が明けて1月末から2月初頭には長男の期末テストウィークが控えていることから…これまた行けず仕舞い

そんなこんなで…

今回は意に反して5ヶ月というインターバルが空いてしまった…という次第である。

さて…京都大学法学部5年生の我が長男…

この4月からは、めでたく6年生へと進級(?)し…

来年の4月にこそは、きっと社会人として私の庇護下から巣立って行ってくれるはず…なのである。

だから彼はそれに向けて、昨秋あたりから就職活動をスタートしている。

そして…

その後しばらく経った時に、彼と話した際には…

富士フイルムのインターンシップに参加するため上京したとか…

関西電力のオンラインインターンシップに参加したとか…

そんなことを言っていたし…他にも

野村證券や博報堂といった企業にも、エントリーすることを考えてるとか…

そんな話も聞いたような記憶がある。

じゃあ、それから少しの時間が経過した今…

果たして現在はどんな感じになっているのか?

そう…

私だってやはり、彼の現在地に対する興味は隠しきれない訳であるが…

敢えて今はその気持ちを封印し

とにかく心を無にして…

とりあえずは…我が長男の汚部屋掃除に全集中するしかなかろう…

そしてひたすら掃除へと没頭し、気がついてみれば…あっという間に2時間という時間が経過していたのだった。

さあ、汚部屋の掃除が一段落したところで…今度は

私が最も楽しみにしている、恒例のランチタイムだ。

長男の部屋から徒歩で5〜10分の所にある、イタリアンレストラン「antico」。

今日もいつものように12時30分に4名で予約しておいたので、その少し前には店に到着すべく…テクテクと皆で歩いて行った。

さて、店に入って落ち着くと…

私はいつも通りに、前菜付きのランチコースと生ビールを注文し…

待望のビールが運ばれてきたら…

それをグビグビと飲みながら、前菜を突っつき始めれば…いよいよ「カーン!」と世間話のゴングが鳴らされる。

とは言っても…

ゴングとともに質問の猛ラッシュをかけるのは、いつも決まって私の妻なのであった。

そこで何を質問するのかと言えば…やはり

大学の単位のこと…

ちゃんと講義には出席しているのか?とか

先日の期末テストは出来たのか?…とか

またはアルバイトのこと…

週に何回くらい働いてるのか?…とか

またはアルバイト先の友人関係のこと…

どんな背景を持つ友人と、どんな遊びをしているのか?…とか

または大学ラクロス部時代のチームメイトの現在地について…

皆はどこに就職したのか?とか
今も彼らと連絡はとっているのか?とか
たまには一緒にゴハンを食べに行ったりするのか?…とか

または私立中高一貫校時代の友人たちの現在地について…

彼らは留年せずに進級してるのか?とか
ちゃんと卒業は出来そうなのか?とか
就職するのか?あるいは大学院に行くのか?…とか

まあまあ、この辺りの話題から入るのが定番であろう。

そんないつもの質問群に、我が長男は面倒臭そうに一つ一つ答えを返して行く…

そしてそれが一段落すると、今日の妻は…いつもとは異なるアクロバティックな話題を持ち出したのである。

それは…妻が現在ハマっている「ゲッターズ飯田」の占い…

何とその占い本をカバンからおもむろに取り出し…

長男が今年気を付けなきゃならない…とそこに記載されていることを、本を見ながら一つ一つ挙げ始めたのである。

これにはさすがの我が長男も閉口し、やや呆れ顔になりかけたので…

「そんなん、もういいから」と私がこれを制止する始末…

これにより…気まずい空気を察して占いの本を引っ込めた我が妻は

そろそろ本題である就活の話題へ入ろうとする。

すると、今度は我が長男がそれを察知してか…すかさず

「就活は今色々とやってる最中だから、また具体的に決まったら話すわ」

と…妻の機先を制するようなセリフを冷静に発するのであった。

まあ、この場でコマゴマとツッコまれたくない彼の気持ちは理解出来るものの…

さすがにそれでは我々のトークも終わってしまうので…

今度は私が違う角度から話を振ってみる。

「以前はインフラ系志望とか言ってたけど…今はどうなん?」

みたいな感じで…

実際に彼は以前、インフラ系である関西電力を考えてるみたいなことを言ってたし…実際に関西電力のオンラインインターンシップへ参加してみたようだし…

すると…彼曰く

「今もインフラ系は考えてるけど、結構メーカー系にも興味が出て来て…そっちもかなり考えてる」

とのことであった。

それだからこそ、メーカー系である富士フイルムのインターンシップに参加したのだろうし…

またここが結構良い印象だったみたいで…これから彼は、その本選考にも応募するつもりでいるらしい。

また…

他にも彼はメーカー系の何社かを考えているようで…今回はその具体的な社名を掘り下げて聞くのをやめておいたが…

この3月から始まるであろう本格的な選考に向けて、いくつかエントリーを考えているとのことだ。

あぁ…

何だかんだで、ちゃんと自分で考えながらやってるんだなぁ…と私は安心したし…

一方で逆に…

これでうまいこと就職が決まったとしても、もし最後の最後で大学の単位が取れずに留年とかなったら最悪やなぁ…と私は少し不安な気持ちにもなったし…

そんな悲喜こもごもの、ランチトークだったのである。

しかし、今回の就活話で私が最も驚いたのは果たして何なのか…と言えば

彼曰く…

もう既に、とある住宅メーカーから「内定を出す」と言われた…という話なのだった。

えぇ?!

っていうか就活始めたとこやんか!
そんな早く内定なんか出るん?

うーん…まさに寝耳に水…の話であろう。

それは…

近年急激に業績を伸ばしてきた、世間でも有名な住宅メーカーであり…

またそれに付随して…

ブラックな職場であることや、顧客とのトラブルとか…そういったことも取り上げられるようになってきたメーカーでもある。

実際にこれまで私も…

この会社についてのそういうニュースを、ネットで目にしたことが度々あるから…

「そこは大丈夫なのか?」

と、少し不安な気持ちになりながらも、ことの経緯を聞いていたのだった。

すると彼曰く…

大学で開催された説明会でそのメーカーとの接点が生まれ、その流れから積極的にスカウトされたとのことだ。

そして…

その会社に所属する、京大OBの社員と話をする場を提供されたり…

採用担当者から促されて、実際に会社へ面接を受けに行ったり(いつの間に!)…したらしい。

すると最終的には…

「内定出すから、就活はもうやめておいても良いんじゃない?」

みたいな話になり…(もしかして、これがあの有名な「オワハラ」ってヤツか?!)

しかし我が長男も、さすがにここで就活をやめてしまうのは嫌らしく…

「今回は保留にさせてください」

と返事をして現在に至る…とのことであった。

ただ…この会社の名誉のために言う訳ではないが…

彼もこの会社に対し、決して悪い印象を抱いている訳ではなく…

彼と接した採用担当者も良い感じの人だったみたいだし…彼が色々と話をした京大OBの社員も良い感じの人だったらしい。

しかも…

彼らは自社が若干ブラックであることをも明確に認めており…

「仕事は正直ハードだけど、やり甲斐はあるし給料も良いから是非…」

みたいな感じで、具体的な初任給の金額も提示した上で勧誘してくれたそうだ。

まあホントに…

就活ってネガティブなイメージしかなかったけど(私が目にする就活関連のネットニュースなんて、ネガティブなことしか書いてないから…)

実際には、こうやって色々な人とやりとりをして…駆け引きをして

そこで色々なことを感じながら、自分の人生の行く先を決めようとする就活って…

案外捨てたもんじゃないよね…

とか思う私もいるのだった。

ここまでの彼の話を聞いていて、そんな感慨を抱いた私が…

「就活って正直なところ…嫌?めんどくさい?」

と、質問してみると…

「いや、別にそんなことないよ」

と…彼は淡々と答えるのである。

そして今回の、私から彼に対する最後の質問だ。

「就活してて、京大の肩書の威力って…感じる時ある?」

すると…

「うーん…あまり感じないかな。でも逆にそれを感じないということ自体が、実は威力があるってことの証明なのかもしれない」

ほぉ…

なるほど…若造のクセに、なかなか気の利いたことを言うではないか…

そう…

これが、我が長男の現在地なのであった。


さあ引き続いて…我が愛しき次男坊

現在は関関同立の経済学部4年生…しかし結局

今年は就職先が決まらなかったので…敢えてこの春の卒業を見送って意図的に留年し、この4月からはめでたく5年生を迎える予定の我が次男坊…

思い返してみれば…

昨夏には我が県の県庁と、県内2つの市役所…計3つの公務員試験を受験して全敗し…

かといって、そこから一般企業への就活をする気配も全くなく…

ひたすら…

彼女と遊ぶことと…

友だちと飲むことと…

あとはパチンコに行ったり、部屋で独りで飲んだり…

そればかりを日々繰り返してきた我が次男坊…

そんな彼も、この春には一般企業への就活をしなければならない。

なぜなら仮に今年も、昨年と同様に夏の公務員試験だけを受験する…という方針にしてしまったら…

もしそこで落ちてしまえば、それ即ち就職がもう1年延びてしまうことを意味するのだから。

だから私は昨年、公務員試験に全敗した時点で…彼と話し合いの場を持ち

「次は、公務員試験の時期までに、一般企業の内定を得ておこう」

という方針で合意しているのだった。

しかし…その合意から現在に至るまでの彼をつぶさに観察していると…

真剣に就活している気配なんて全く感じられない。

あの長男でさえ…

「もっと早く就活を始めておけば良かった」

とかブツブツ言いながら、今では粛々と就活しているのに。

しかも…学歴とかの肩書面に目を向けてしまえば、長男と比べるとどうしても彼の不利は否めない状況なのに。

おいおい…ホントに大丈夫なんか?
ちょっと余裕こきすぎじゃないか?

私はそういう気持ちにならざるを得ないのであった。

だから時々、心配になった私や妻が…夕食の時などに

「ちゃんと就活してるん?」

と質問してみると…

「うん、まぁ…一応してるよ」

とか答えるのである。

その度に…

ホンマかいなぁ!ってツッコミたくなるのだが…

そんな彼の話によれば…

昨年の暮れぐらいから、いくつかの企業のインターンシップに応募したらしい。

具体的な社名は「伊藤園」しか出さなかったが、その他にも有名企業に何社か応募してみたとのことだ。

しかし、その後…

彼がスーツを着用して、いそいそとインターンシップに出かけていくような気配は…今のところ全くない。

ということは、言わずとも結果は知れていよう。

相変わらず彼は…

毎日酒を飲んで、時々バイトに行って、定期的に彼女とデートして…

いつも金欠で、いつも次月の小遣いを前借りして…

うーん…やはり彼は大物なのだろうか…

まあおそらく彼は…

「春から始まる通常の選考に応募すればいいや」

くらいの気持ちでいるのだろう。

こんなふうに、たとえ皆が焦るような状況であっても…いつも動じることなく、焦ることなく、ドーンと構えてる所は…

本当に昔から変わらないよなぁ…と、私はつくづく思うのであった。

さて…そんな彼は現在

彼女と北海道旅行に行っている真っ最中である。

「卒業旅行」…ということだ…

いやいや!
アンタ卒業せえへんやないか!

そりゃ確かにアンタの彼女は、この春に卒業して、立派な会社に就職することが決まってるけど…

と…もう、いつもながら

ツッコミどころ満載の、我が愛すべき次男坊なのである。

そして…

今回の旅行に際して私は、本来ならその旅費を出してあげたいと思っていたのだが…

結局は出さなかった。

というか出せなかったのだ。

というのも…彼は大学の単位を少し残した上で、来年度は5年生になることが決まっているので…

この5月にはおそらく、年間学費の半額にあたる約50万円を大学に支払わなければならないことになると思われる。

そう…

私はこれから、その50万円を捻出しなければならないのだ。

そんな中でも…

今月には確定申告があって、決して少なくない申告所得税を支払ったし…

5月には自動車税、固定資産税、私の加入する医師損害賠償責任保険料…そして長男の学費…

これらの結構な出費が待ち構えている。

まあおそらくは…世間の誰しもが苦しい毎年5月なのだろうが、例に漏れず私もかなり苦しい。

そこに50万円を追加で用意しなければならないとなると…

とてもではないが、北海道旅行に金を出してあげる余裕など全く存在しないのが…我が家の悲しい現実なのであった。

ここでもし…

この春に次男坊の卒業と就職が決まっていた…と仮定するのなら、その時には旅費を全額ポーンと出してあげていたはずだ。

しかしこれも人生なのである。

そう…今頃は氷点下の札幌にいるであろう我が次男坊

彼女とのキラキラした楽しい卒業旅行のはずなのに、実は卒業するのは彼女だけ…という

何とも…この生煮えな感じ

この感じが…いかにも我が愛すべき次男坊らしくて、ついつい微笑んでしまいそうになる私もいるのだった。

いやいや、微笑んでいる場合ではあるまい。

ここからは気合を入れて…

しっかり就活をして、向こう3〜4ヶ月の間にはどこからか内定を得てもらわなければならない。

そして内定を得た上で…

そのままそこに就職するのか、あるいは公務員試験に再チャレンジするのか…それを考えたら良いだけの話だ。

いやぁ、しかし…そんなうまいこと行くやろか?

と…彼に対してはいつも、こんな情けない問答を繰り返してしまう私なのである。

そしてそれこそがまさに、我が愛すべき次男坊の現在地なのであった。