宅地建物取引業者の説明義務3 第3章 代理権 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第3章 代理権

 

最判昭和44年11月21日民集23巻11号2097頁

甲が、金融業者乙の被用者であるが代理権を有しない丙との間に、乙の不動産を買い受ける契約を締結し、代金を丙に支払うに際し、売買契約書等の表示、乙に対する登記抹消の訴に関する予告登記の存在、交渉中における代金減額の経過など、原判示のような丙の権限を疑うべき事情(原判決理由参照)があるにかかわらず、丙を乙の支配人と紹介した仲介人の言葉のみを信用し、丙の代理資格および売買の意思の有無につき乙に問い合わせるなどの調査をすることなく、丙にその権限があるもの信じて、右契約を締結し多額の代金を丙に支払った場合であっても、甲がこのように信じたことにいまだ重大な過失があるとはいえず、甲は、乙に対し、民法715条に基づき損害賠償を請求することを妨げられない。

控訴審は大阪高判昭和43年9月25日金判202号17頁、1審は大阪地判昭和41年1月20日判タ188号164頁

当時本件物件に関しては、前記浜田から被告中沢に対し、代物弁済の無効を主張して所有権移転登記抹消手続請求の訴が提起され大阪地方裁判所に係属中であり、またこれに関連する調停も進行中であって、被告中沢としても浜田らから金員を支払ってもらえば本件物件は同人らに返還する意向であったので、原告にその所有権を移転できる見込みはなく、しかも被告森本には本件物件を売却する具体的権限は何ら与えられていなかったのであるが、被告森本はこれらの事情を秘し、売買代金名下に原告から金員を詐取する目的で、あたかも同被告であって本件物件を売却処分する代理権を有しており、原告に直ちにその所有権を移転できるかのように装って、交渉にあたった原告代表者渋谷昇及び営業部長高橋至をしてその旨誤信させ、その結果、原告は昭和30年6月30日、右高橋至を代理人として、仲介人たる被告岡部らの立会のもとに、被告森本との間で、本件物件を代金1千7百万円で被告中沢より買受ける旨の契約をなし、同日手付金として現金350万円、同年7月7日に内金として現金650万円、計1千万円をいずれも右高橋を通じて被告森本に交付した。しかし、結局、原告は本件物件を取得することができず、右金員は被告森本の右詐欺行為によって売買代金名下に欺し取られたのである。

 

東京高判昭和40年4月14日判タ176号181頁

宅地建物取引業者としては、不動産の売買を媒介するに際しては当該不動産を現地において調査するはもちろん、関係人への問い合せあるいは登記簿その他の資料の調査等の方法により、不動産の公簿上の所有名義人が何人となっているか、真実の所有者が何人であるか、担保権、賃貸借等の負担が存するか否か等を確認し、さらに現実に売買契約をなす者が代理人である場合においては、委任状、印鑑証明等によってその代理権の存否あるいはその範囲を調査すベきはもちろん、もしこれらの点について疑がある場合には、直接本人に照会する等の方法によってこれを明確にし、さらに以上の調査結果を依頼者に報告して、依頼者に不測の損害を及ぼすことのないように注意すべき義務あるものというべきである(宅地建物取引業法第一八条第一号参照)。そうしてこれを本件について見れば、控訴人は登記簿上本件家屋が亡西山末吉名義となっており、本件宅地は第三者の名義となっていること末吉の相続人としては長男勘一の外数名の子がおり、勘一は精神病者で入院治療中であること等を知っていたのであるから、契約締結前にこれを依頼者である被控訴人に告げるべきであることはいうまでもなく、右のような複雑な事情があり、果して菊田の言うように相続人等の間で本件不動産を菊田の妻であった西山光の所有とする旨の協議ができているのか否か、また菊田がこれを売却処分する権限を与えられているのか否かについても疑念を持っていたのであるから、この点につき前記のような方法により十分調査してその結果を被控訴人に報告すべき義務あるものというべきである。

 

東京高判昭和50年11月27日判タ336号251頁

 不動産業者が依頼者に対する注意義務を怠ったことよって依頼者に損害賠償責任を負う場合に、業者の注意義務違反または損害の発生もしくは拡大につき、依頼者にも過失があるときは、過失相殺されるべきものであることはいうまでもないが、業者は免許という形で一定の資格審査を受けて専門的知識を有するものとされ、依頼者はまさに右専門的知識・経験を信頼して業者に仲介を依頼するものであるから、両者の要求される注意義務の程度には相当の差があり、これを如何に評価するかが問題となる。

  本件は、X(原告、被控訴人)がY(被告、控訴人)に依頼し、その仲介で所有者から一任されていると称するAを通してB所有の土地と建築中の建物を買受け代金を支払ったところ、実際にはAはB所有の土地・建物を処分する権限がなく、Xから代金を受け受取ったまま逃亡してしまったので、XからYに損害賠償を求めたものであるが、Yはその責任を争うとともに、予備的にXにも過失があったとして過失相殺を主張した。

  本判決は、業者に仲介を依頼する者としても、土地登記簿により所有権者を確認し、売手が所有者と異なる場合には委任状や印鑑証明書の提出を求め、建築中の建物ならばその設計見積書の作成などの手続を明確にしておく等の手段を講ずる注意義務を負うものであるに、Xはこれを怠ったとし、Yの過失相殺の主張を認め、損害の2割を減額した。

  仲介業者の専門的知識・経験を信頼し、みずから相手方の事情を調査しなかったとしても、依頼者に過失がないとするものが多いようである(東京高判昭和28年1月30日高民集6巻138頁、東京高判昭和32年7月3日高民集10巻5号268頁、東京地判昭和41年2月19日判タ189号173頁など)が、本件と同じく依頼者に過失があるとするものもある(名古屋高判昭和36年3月31日高民集14巻3号213頁など)。

 

東京地判昭60年9月25日判タ599号43頁は、「被告Yは委託を受けて本件不動産取引を仲介する者として、原告Xに対し、善良な管理者としての注意義務を負うものというべきところ、YはXに対して本件不動産を紹介した当初から、本件不動産はAがBから買い受けて直ちにXに転売するものであることを知っていたのであるから、YはXに対する関係においても、BとAとの間の本件先行売買契約が有効にされたか否か、すなわち、Bに真に本件不動産を売却する意思があるのかどうか、あるいはBの自称代理人Cに真に代理権があるのかどうかを確認すべき注意義務があったものというべきである」と判示し、不動産所有者・売主の自称代理人の権限につき調査をしなかった不動産仲介業者に損害賠償責任があるとしている。

 

東京高判平成元年2月6日金融法務事情1241号36頁

1 不動産仲介業者が所有者の自称代理人から不動産売買の仲介を委託された場合においては、自称代理人の持参した本人の実印、印鑑証明書等により代理権の調査・確認をするだけでは十分ではなく、代理権限に疑問を抱く余地のないような特段の事情の存在しない限り、本人に照会して意思を確認する注意義務がある。

2 不動産の売主の自称代理人に代理権がなかった場合において、不動産仲介業者が、代理権の調査・確認を怠ったため、買主に瑕疵ある売買契約を締結させ、売買代金名下に300万円を支払わせて同額の損害を被らせたときは、仲介業者は右代金相当額の損害賠償をすべき義務を負い、右不動産の時価相当額の損害賠償義務を負うものではない。

 

東京高判平成元年2月6日金判823号20頁、1審は東京地判昭和62年11月27日判時1280号97頁

1 不動産仲介業者が所有者の自称代理人から不動産売買の仲介を委託された場合においては、自称代理人の持参した本人の実印、印鑑証明書等により代理権の調査・確認をするだけでは十分ではなく、代理権限に疑問を抱く余地のないような特段の事情の存在しない限り、本人に照会して意思を確認する注意義務がある。

2 不動産の売主の自称代理人に代理権がなかった場合において、不動産仲介業者が、代理権の調査・確認を怠ったため、買主に瑕疵ある売買契約を締結させ、売買代金名下に300万円を支払わせて同額の損害を被らせたときは、仲介業者は右代金相当額の損害賠償をすべき義務を負い、右不動産の時価相当額の損害賠償義務を負うものではない。

1審は東京地判昭和62年11月27日判時1280号97頁

不動産仲介業者の買主に対する所有権移転登記手続及び引渡が履行されるように努力すべき義務の不履行がなかったとされた事例。控訴審は原審を変更。