公正証書に記載される執行受諾の意思表示と民法第110条の適用ないし準用の有無
請求異議事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和31年(オ)第123号
【判決日付】 昭和33年5月23日
【判示事項】 公正証書に記載される執行受諾の意思表示と民法第110条の適用ないし準用の有無
【判決要旨】 公正証書に記載される執行受諾の意思表示には民法第110条の適用または準用はないものと解すべきである。
【参照条文】 民事訴訟法559
民法110
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集12巻8号1105頁
判例時報151号19頁
【評釈論文】 金融法務事情183号6頁
民商法雑誌38巻6号108頁
民法
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人近藤与一の上告理由第一点の論旨は、公正証書の作成につき消費貸借の実体上の効力と執行受諾の意思表示の効力に関し民法一一〇条の適用の有無を区別した原判決の判断は違法であると主張する。
しかし、公正証書に記載される「直チニ強制執行ヲ受ク可キ旨」の意思表示は、公証人に対してなされる訴訟行為であるから、私人間の取引の相手方を保護することを目的とする民法一一〇条の適用又は準用のないものと解すべきことは当裁判所の判例とするところであつて、今これを変更する要を認めない(昭和三二、六、六日第一小法廷判決、集一一巻七号一一七七頁、なお大審院昭和一一、一〇、三日判決、集一五巻二〇三五頁、昭和一九、九、二九日判決、集二三卷五六三頁参照)。従つて原判決の判断は正当であつて、所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷