同一当事者間で各別の売買契約によりされた相互の土地の譲渡と取得等を交換に当たるとしてした譲渡所得 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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同一当事者間で各別の売買契約によりされた相互の土地の譲渡と取得等を交換に当たるとしてした譲渡所得に係る課税処分が違法とされた事例

 

 

              所得税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成10年(行コ)第108号

【判決日付】      平成11年6月21日

【判示事項】      同一当事者間で各別の売買契約によりされた相互の土地の譲渡と取得等を交換に当たるとしてした譲渡所得に係る課税処分が違法とされた事例

【判決要旨】      同一当事者間で相互に土地の譲渡、取得等をするに当たり、各別の売買契約書を作成して売買という法形式を選択した場合において、その法形式が仮装のものであるとすることが困難である等判示の事実関係の下では、これを交換に当たるとしてした譲渡所得に係る課税処分は違法である。

【参照条文】      所得税法33-1

             所得税法33-3

             所得税法36-1

【掲載誌】        高等裁判所民事判例集52巻26頁

             訟務月報47巻1号184頁

             判例タイムズ1023号165頁

             判例時報1685号33頁

             税務訴訟資料243号669頁

 

 一 納税者が、取引に際して通常用いられるのとは異なった法形式を採用することによって、通常用いられる法形式によった場合に課される税負担の軽減を図ろうとする場合があり、このような場合には、租税回避の目的でされた法律行為の効果を課税処分上どのように扱うべきかが問題とされることとなる。

本件は、X及びXの母の所有する土地等(譲渡資産)をいわゆる地上げ業者の提供する他の土地等(取得資産)と交換するに際して、各資産ごとの各別の売買契約とその各売買契約代金の相殺という取引の形式が取られ、これによって、Xらの譲渡資産の譲渡による譲渡所得に対して課される所得税の負担が、これらの両資産が交換契約(本件では、譲渡資産と取得資産の価額に差があるため、補足金付交換契約ということになる。)によって交換された場合に比べて、大幅に軽減される結果となった。そこで、課税庁は、この取引が、形式上は売買契約の形がとられているものの、実質的には交換契約に該当するものであるとして、交換契約によって資産が譲渡されたものとして計算したところに従って、Xらの所得税について課税処分を行ったため、Xらがその取消を求めたのが本件である。なお、本件では、Xの母がその後死亡したため、本件取引でXの母が取得していた取得資産について相続が開始し、その相続財産の評価について当時の租税特別措置法六九条の四の規定による計算特例(相続開始時の時価によるものとの相続税法上の原則に対する特例として、その取得の対価の額をもって課税価額とされることとなる。)が適用されるため、この相続税の課税価額の点についても、同様に本件取引が売買契約なのか交換契約なのかという観点からする争いが生ずることとなった。

 二 原判決(東京地判平10・5・13判時一六五六号七二頁)は、その取引の経過等からして、本件取引においては、相互の権利移転を同時に履行するという関係を当然の前提とし、一方の履行不能は他方の履行を無意味ならしめるという関係にあり、したがって、本件取引は、取得資産及び差金(補足金)と譲渡資産とを相互の対価とする不可分の権利移転合意、すなわち民法五八六条の交換に当たるものであるとして、所得税関係の課税庁の処分を正当なものとした。もっとも、相続税関係の処分については、本件取引が交換に当たるものとしても、課税庁のした課税価額の計算には誤りがあるものとして、課税処分を取り消した。

これに対し、本件控訴審判決は、本件取引については、譲渡資産の譲渡と取得資産の取得について各別に売買契約書が作成され、契約書上は売買の法形式が採用されていること、このような法形式が採用されたのは、交換の法形式を採用した場合に生ずる譲渡所得に対する税負担の軽減を図るためであったことが認められるが、この売買の法形式が仮装のものであるとすることは困難であり、また、いわゆる租税法律主義の下では、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直して課税処分を行う権限が課税庁に認められているものではないことなどを理由に、これを売買契約とみる以外ないものとし、これが交換契約に当たることを前提としてした課税庁の処分を違法として取り消すに至った。

 

 

所得税法

(譲渡所得)

第三十三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。

一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得

二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得

3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。

一 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)

二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの

4 前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。

5 第三項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第一号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。

 

(雑所得)

第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。

一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額

二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額

3 前項に規定する公的年金等とは、次に掲げる年金をいう。

一 第三十一条第一号及び第二号(退職手当等とみなす一時金)に規定する法律の規定に基づく年金その他同条第一号及び第二号に規定する制度に基づく年金(これに類する給付を含む。第三号において同じ。)で政令で定めるもの

二 恩給(一時恩給を除く。)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金

三 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金(第三十一条第三号に規定する規約に基づいて拠出された掛金のうちにその年金が支給される同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者(同項に規定する加入者であつた者を含む。)の負担した金額がある場合には、その年金の額からその負担した金額のうちその年金の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額に相当する部分に限る。)その他これに類する年金として政令で定めるもの

4 第二項に規定する公的年金等控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 その年中の公的年金等の収入金額がないものとして計算した場合における第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(次号及び第三号において「公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」という。)が千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が六十万円に満たない場合には、六十万円)

イ 四十万円

ロ その年中の公的年金等の収入金額から五十万円を控除した残額の次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額

(1) 当該残額が三百六十万円以下である場合 当該残額の百分の二十五に相当する金額

(2) 当該残額が三百六十万円を超え七百二十万円以下である場合 九十万円と当該残額から三百六十万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額との合計額

(3) 当該残額が七百二十万円を超え九百五十万円以下である場合 百四十四万円と当該残額から七百二十万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額

(4) 当該残額が九百五十万円を超える場合 百五十五万五千円

二 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が千万円を超え二千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が五十万円に満たない場合には、五十万円)

イ 三十万円

ロ 前号ロに掲げる金額

三 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が二千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が四十万円に満たない場合には、四十万円)

イ 二十万円

ロ 第一号ロに掲げる金額

 

(収入金額)

第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。

3 無記名の公社債の利子、無記名の株式(無記名の公募公社債等運用投資信託以外の公社債等運用投資信託の受益証券及び無記名の社債的受益権に係る受益証券を含む。第百六十九条第二号(分離課税に係る所得税の課税標準)、第二百二十四条第一項及び第二項(利子、配当等の受領者の告知)並びに第二百二十五条第一項及び第二項(支払調書及び支払通知書)において「無記名株式等」という。)の剰余金の配当(第二十四条第一項(配当所得)に規定する剰余金の配当をいう。)又は無記名の貸付信託、投資信託若しくは特定受益証券発行信託の受益証券に係る収益の分配については、その年分の利子所得の金額又は配当所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、第一項の規定にかかわらず、その年において支払を受けた金額とする。