宝石店主らがブラジル人女性に対し外国人であることを理由に店舗からの退去を求めたことが不法行為に当たるとして150万円の損害賠償請求が認容された事例
静岡地方裁判所浜松支部判決/平成10年(ワ)第332号
平成11年10月12日
損害賠償請求事件
【判示事項】 宝石店主らがブラジル人女性に対し外国人であることを理由に店舗からの退去を求めたことが不法行為に当たるとして150万円の損害賠償請求が認容された事例
【参照条文】 民法709
民法710
憲法14
あらゆる形態の人権差別の撤廃に関する国際条約6
【掲載誌】 判例タイムズ1045号216頁
判例時報1718号92頁
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
憲法
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
あらゆる形態の人権差別の撤廃に関する国際条約
第3条
締約国は、特に、人種隔離及びアパルトヘイトを非難し、また、自国の管轄の下にある領域におけるこの種のすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束する。
第4条
締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。
人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。
国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。
事案の概要
Xは、日本に在留するプラジル人女性であるが、Yらの経営する宝石店に人り、ショーケースを跳めていたところ、Y1から国を尋ねられ、ブラジルと答えた途端、外国人の立入りは禁止であると告げられた。Xが理由を尋ねると、Y1は「出店荒らしにご用心!」とのチラシを指し、店から出ないと警察を呼ぶと告げられた。その後、Xが電話で呼んだ夫らやY1が呼んだ警察官を交え、XとYらとの間で問答があったが、Y1は所用で退出し、XにはY2が応対した。Y2はXから謝罪文の交付を求められ、「言葉が通じないのでごめんなさい。これしか言いようがありません」とのメモを渡したが、Xから反省していないようだと言われ、実は反省していない、本当は早く帰って欲しいだけだと答えた。話は物別れとなり、XはYらを相手取り、人種差別を理由に慰藉料100万円、弁護士費用50万円、合計150万円の損害賠償を求める訴えを提起した。Yらは、客を入店させるか否かは私的自治に委ねられていること、Xの行動が怪しいと思ったYらの判断は誤りと断定できず、公序良俗に反しないこと、仮にこの判断が誤りであったとしても、Yらの置かれた立場やその当時の状況からやむを得ないものであったことなどを主張した。
本判決は、Yらが外国人を異質なものとして邪険に扱い、あたかも犯罪予備軍的に取り扱ったのは妥当でなく、Xの人格的名誉を傷つけたとして、Xの請求を全部認容した。